60話
パワーレベリングは順調に進んでいた。
五階層で何度か岩石アルマジロを相手に、モンスター寄せのお香を使った狩りを繰り返す。
単調な作業のようでいて、その一回一回に意味がある。
巳未の動きは、確実に変わっていた。
最初はぎこちなかった足運びも、少しずつ無駄が減り、突きのタイミングも合わせられるようになってきている。
「……よし、次行こう」
美々は判断する。
十分に“基礎”は出来てきた。
次は、実戦に近い環境だ。
十階層。
相手は火吹キツネ。
冬休みの間に何度も戦った相手だ。
「ここからは、ちょっと忙しくなるよ」
そう言いながらも、美々の声に不安はない。
すでに確立された戦い方がある。
防御陣地を素早く構築し、侵入経路を限定する。
兎見丸をその正面に配置。
その背後に巳未。
さらに後方に辰見。
美々は全体を見渡せる位置へ。
「来るよ」
次の瞬間、火吹キツネが跳び込んでくる。
土嚢の壁を飛び越えようとする個体――
「辰見!」
ヒュッ、と矢が走る。
空中で撃ち落とされる火吹キツネ。
一方で、侵入経路から地を這うように迫る個体もいる。
それらは兎見丸の前で止められる。
炎を吐き、噛みつき、押し込もうとするが――
「そのまま!」
【不動】を発動した兎見丸は、一切揺るがない。
「巳未、今!」
背後から、巳未が踏み出す。
トン――と突き出される槍。
以前よりも明らかに速い。
そして、迷いがない。
火吹キツネの隙を的確に突き、ダメージを重ねていく。
「……いい感じ」
美々は全体を見ながら、指示を飛ばす。
必要なら【投擲】で援護し、数が増えれば自ら前線に出る。
巳未の横に並び、一撃で押し返す。
「焦らなくていい、当て続けて」
声を掛けると、巳未はコクリと頷き、再び槍を突き出した。
戦闘を重ねるごとに、変化ははっきりしていく。
動きが洗練される。
間合いの取り方を覚える。
そして何より――
短槍の突きが、鋭くなっていく。
「……ちゃんと、育ってる」
小さく呟く。
最初は“当てるだけ”だった攻撃が、今は確実に“削る”ものへと変わっている。
まだ決定打には遠い。
だが、それでいい。
「しばらくは、このまま」
火吹キツネ相手に経験を積ませる。
動きと感覚を体に覚えさせる。
そして――
「スキルを一つ、取らせたい」




