6話
研究者の講義は、その後も三日間続いた。
迷宮の構造。
次元空間。
量子干渉。
未知のエネルギー。
難しい話ばかりで、正直かなり大変だった。
美々は途中で何度もウトウトしそうになりながらも、なんとか頑張って講義を聞いた。
ノートには専門用語が並んでいるが、理解できているかと言われると自信はない。
それでも三日間の講義は終わった。
そして七日目。
講師がまた別の人物に変わった。
教室の前に立ったのは、がっしりした体格の男性だった。
腕も太く、いかにも鍛えているという体つきだ。
年齢は三十代後半くらいだろうか。
迷宮公社の制服ではなく、動きやすそうな服装をしている。
「俺は元探索者だ」
開口一番、そう言った。
会場の空気が少し変わる。
それまでの講義とは違い、どこか現場の匂いがする。
「今日は探索者について話す」
その言葉に、受講者たちの姿勢がわずかに前のめりになる。
まず説明されたのは、探索者の身体についてだった。
探索者は、モンスターを倒すことで身体能力が向上する。
通称――レベルアップ。
ただし、ゲームのように数値化されているわけではない。
「レベルいくつ、みたいな数字は無い」
「だが確実に強くなる」
筋力、反応速度、持久力。
少しずつだが、人間の限界を超えていくという。
会場のあちこちから小さなどよめきが起きた。
次に説明されたのは、探索者のもう一つの特徴だった。
スキル。
探索者は迷宮で活動するうちに、特殊能力を習得することがある。
それがスキルだ。
スキルの習得条件は、正確には解明されていないらしい。
ただし研究の結果、
迷宮での探索時間。
迷宮内での行動。
そして探索者本人の願望や思考。
そういった要素が関係していると考えられている。
「例えば剣ばかり振ってる奴は剣系のスキルが出やすい」
「回避ばっかしてる奴は回避系だな」
そんなふうに説明された。
だが同じ行動をしていても、同じスキルになるとは限らない。
スキルの種類は非常に多く、個人差も大きい。
そしてスキルは使い続けることで成長する。
同じスキルでも、使い方によって成長の仕方が変わるという。
「あと、スキルを覚えると――」
講師は指を立てた。
「なんとなく分かる」
会場に小さな笑いが起きる。
「説明できる感覚じゃないが、使い方が頭に入ってくる」
実際にスキルを得た探索者の多くが、そう証言しているそうだ。
ただし、ここで一つ重要な制限がある。
探索者の身体能力の向上も、スキルも――
迷宮の中か、その周辺エリアでしか使えない。
迷宮から離れると、身体能力は元の人間のレベルに戻る。
スキルも発動できない。
つまり探索者は、日常生活では普通の人間なのだ。
「だから街中でスーパーマンみたいに暴れる奴はいない」
講師はそう言った。
さらにスキルの情報についても説明があった。
確認されているスキルは、迷宮公社のホームページで公開されている。
攻撃系、補助系、探索系。
種類は非常に多い。
そして最後に、迷宮周辺の環境について。
迷宮の周辺地域は、探索者向けの施設が集まっている。
装備店。
宿泊施設。
医療施設。
買取所。
トレーニング施設。
探索者が活動しやすいよう、街そのものが整備されているのだ。
講義を聞いているうちに、会場の空気は少しずつ変わっていた。
それまでの法律や研究の話とは違う。
探索者の話だ。
受講者たちのテンションが、明らかに上がっていた。
「スキルか……」
「マジであるんだ」
「俺、剣スキル欲しい」
あちこちからそんな声が聞こえる。
美々も、胸の奥が少しだけ高鳴っていた。
(スキル……)
自分にも、覚えられるのだろうか。
迷宮に入れば。
モンスターを倒せば。
もしかしたら――
自分も。
そんなことを考えながら、美々は講師の話を聞き続けた。




