59話
新しい眷属は、悩んだ末に槍を持たせることにした。
美々とは違うタイプのアタッカー。
前に出すぎず、それでいて確実にダメージを重ねられる存在。
選んだのは直槍――最も基本的な形状の槍。
まずは扱いやすさを優先し、短めの槍を持たせることにした。
防具は美々と同じ、岩石アルマジロのレザースーツにシャボンクラブの甲殻プロテクター。
「とりあえずは……後ろからチクチク、だね」
兎見丸の背後に隠れ、確実に当てることから始める。
迷宮一階層。
美々は【眷属召喚】を発動する。
足元に浮かぶ小さな幾何学模様の陣。そこから現れるピクトグラムが、やがて形を持つ。
「……来た」
現れたばかりの眷属に、用意していた装備を渡す。
短槍を握らせ、軽く振らせてみる。
――ぶん。
やはり動きはゆっくりだ。
「……うん、いつも通り」
思わず小さく笑う。
最初はこんなものだと分かっている。
「名前は、巳未。よろしくね」
兎見丸、辰見に次いで十二支にちなんだ名前だ。
声を掛けると、巳未は小さくコクリと頷いた。
そのまま五階層へ移動する。
相手は岩石アルマジロ。
パワーレベリングにはちょうどいい。
冬休みと同じように、防御陣地を構築する。
土嚢を積み、逆茂木を配置し、侵入経路を絞る。
そしてモンスター寄せのお香に火をつけた。
しばらくすると――
ゴロゴロ、と音を立てながら岩石アルマジロが集まり始める。
転がるように突進してきたそれらは、土嚢や逆茂木にぶつかり、勢いを削がれる。
中には、そのまま侵入経路から入り込んでくる個体もいるが――
「兎見丸」
前に立つ兎見丸が静かに構える。
【挑発】。
引き寄せられるように、アルマジロたちの意識が集中する。
次の瞬間、激しい衝突音。
だが兎見丸は揺るがない。
その間に――
「巳未、いってみよっか」
背後に控えていた巳未が、一歩前へ出る。
そして、短槍を突き出す。
トン。
トン。
トン。
慎重で、ゆっくりとした突き。
確実に当ててはいるが――
「……全然、通ってないね」
美々は冷静に観察する。
岩石アルマジロの硬い外皮には、まだ決定打にならない。
それでも。
「うん、それでいい」
最初から強さは求めていない。
まずは当てること。
距離を覚えること。
前に出るタイミングを覚えること。
兎見丸が受け、辰見が削り、その間で確実に“関わる”。
その積み重ねが、いずれ形になる。
巳未は何度も頷きながら、同じ動作を繰り返す。
トン、トン、と小さな音が続く。
「……育てていこう」
美々は小さく呟いた。
その視線の先で、まだ頼りない槍の一撃が、しかし確かに戦いの中に組み込まれていた。




