56話 小鳥遊ひより視点
小鳥遊ひより視点
迷宮周辺エリアで兎見さんを見つけたのは、まったくの偶然だった。
中学生の頃からの友達に誘われて探索者資格を取り、その日は一緒に装備品を見に行く予定だった。けれど友達は急用で来られなくなり、ひとりで来たものの、何となく気まずくて帰ろうかと思っていた時だった。
前を、見覚えのある背中が通り過ぎた。
兎見美々。同じクラスの子だ。
いつも教室の隅で、本を読んでいる静かな子。 正直、迷宮とは一番縁がなさそうなタイプだと思っていた。
その彼女が、迷宮周辺エリアにいる。
——気づいた時には、声をかけていた。
話してみて、やっぱり驚いた。 兎見さんは探索者だった。それも、夏休みの間ずっと活動していたらしい。
ただ、会話はぎこちない。
目は合わないし、落ち着きなく視線が泳ぐ。 言葉もどこか頼りない。
(あ、すごく人見知りなんだ……)
少し申し訳なく思いながらも、せっかくだからと装備について聞いてみた。
「店員さんに勧められて……」と最初は言っていたけれど、話を聞いていくうちに気づいた。
ちゃんと、自分で考えて選んでいる。
どういう場面で使うのか、どう動くのか。 彼女なりに、しっかり理由があった。
見た目の印象とは違う。
——この人、ちゃんと“探索者”だ。
結局その日は、兎見さんと同じ装備を購入して帰った。 後日、友達にもそれを勧めたくらいだ。
それから少しずつ、学校でも話すようになった。
彼女は目立つのが苦手みたいで、クラスメイトが少ないタイミングを見て、迷宮の話をすることが多い。
スキルや詳しい探索方法を根掘り葉掘り聞くのはマナー違反だから、深くは聞かない。
でも、一つだけ分かっていることがある。
兎見さんは——一人で迷宮に入っている。
低層階でもパーティを組むのが常識だと講習で習った。 だから知らないはずがない。
それでも一人で潜っている。
しかも、問題なく。
華奢で、小さくて、どこか頼りなさそうに見えるのに。
——この人、たぶん、思っているよりずっと度胸がある。
冬休み明け。
教室に入ると、珍しい光景が目に入った。
兎見さんが、笑っている。
スマホを見ながら、はっきりと分かるくらい嬉しそうに。
いつもは一人で、無表情に近いのに。
挨拶をして話を聞くと、迷宮公社から依頼を受けたのだという。
公社からの依頼なんて、聞いたことがなかった。
それはつまり——
評価されている、ということだ。
実績がある、ということだ。
目を合わせず、落ち着かず、おどおどと話すその姿からは、どうしても結びつかない。
でも、もう分かっている。
——この子は、見た目で判断していい人じゃない。




