55話
冬休みが明けた。
教室の空気は、どこか落ち着かない。
クリスマスを挟んだことで、関係が変わった者たちが目に見えて分かる。
新しく付き合い始めたカップル。
逆に、ぎこちない距離を保っている元カップル。
あちこちで、小さな変化が起きていた。
――そんな中で。
美々は、いつも通り自分の席に座り、スマホを見ていた。
表示されているのは、迷宮公社のホームページ。
冬休みの依頼で得た収入は大きく、貯蓄にはかなりの余裕ができている。
(……次、どうしよう)
新しい装備。
スキルとの相性。
今後の探索方針。
考えることはいくらでもあった。
その時間が、純粋に楽しい。
自然と、口元も緩んでいた。
「おはよう、兎見さん」
ふと、声がかかる。
顔を上げると、小鳥遊ひよりが立っていた。
「久しぶり。冬休みどうだった?」
少し驚きつつも、美々は答える。
「……迷宮、ずっと行ってた」
「え、ずっと?」
「……うん。公社の依頼で……」
ぽつぽつと、話す。
依頼を受けていたこと。
ずっと潜っていたこと。
そのせいで、親に怒られたこと。
話しているうちに――
いつの間にか、ひよりの周りにクラスメイトたちが集まっていた。
「え、公社の依頼って何それ」
「そんなのあるんだ」
興味を引かれたのか、次々と声が飛んでくる。
「……あ、えっと」
美々は少しだけ戸惑いながらも、なんとか答えようとする。
ひよりはくすっと笑って、
「へー、公社から依頼なんてあるんだ」
「それは怒られるね」
と軽く相槌を打つ。
その言い方がどこか柔らかくて、場の空気を和らげていた。
周囲も、楽しそうに話を聞いている。
会話の流れはやはり速い。
途中で何度か置いていかれそうになる。
それでも――
前みたいに、完全に黙り込むことはなかった。
「……うん」
「……そう」
短くても、返す。
会話に“残る”ことができている。
やがて話題は別の方向へ流れ、美々はいつの間にか聞き役に回っていた。
完全にはついていけず、
最終的には、いつものように相槌を打つだけになる。
それでも――
(……今日、いっぱい話した)
心の中で、そう思えた。
美々はほんの少しだけ笑う。
上手く話せたわけじゃない。
中心にいたわけでもない。
だけど。
ちゃんと、その場に“いた”。
それだけで、十分だった。
その日、美々はずっと上機嫌で過ごした。




