54話
お香の効果が切れるまでの一時間。
美々たちは、戦い抜いた。
戦闘後、簡易防御陣地の状態を確認する。
逆茂木に使った鉄パイプは、何本かが折れ、あるいは大きく曲がっていた。
土嚢の壁は崩れてはいないものの、火吹キツネの炎で焼かれ、所々に穴が開き、中の土がこぼれ出ている。
「……うん、十分」
元々、簡単に用意できる資材で作った即席の陣地だ。
これだけ耐えたなら上出来だった。
壊れた部分を補修し、再設置。
同じ戦法を繰り返し――
五日ほどで、火吹キツネの毛皮は規定量を達成した。
だが。
すべてが上手くいくわけではなかった。
次に挑んだシャボンクラブ。
同じように防御陣地を構築し、迎撃を試みる。
最初は問題なかった。
数匹程度であれば、土嚢の壁で十分に受け止められる。
だが――
数が増えると状況は一変する。
「っ……!」
次々と放たれるシャボン玉。
一見、軽そうなそれは――
強いノックバックの力を持っていた。
連続で受けることで、土嚢の壁がずれていく。
さらに。
「硬い……!」
シャボンクラブの甲殻は硬い。
美々の【投擲】も、
辰見の【射撃】【狙撃】も、
決定打にならない。
【狐火】も、多数を相手にすると押し負ける。
じわじわと押し込まれ――
壁が、崩れた。
「逃げるよ!」
即断。
美々は迷わず【トラベル】を発動した。
視界が切り替わり、迷宮の外へ。
――辛うじての離脱だった。
(……これは、無理)
戦術が通用しない相手もいる。
それを、はっきりと思い知らされた。
さらに。
引き篭もり亀。
こちらは、そもそも戦術が成立しなかった。
美々たちを認識すると、すぐに甲羅の中へ引きこもる。
防御陣地を構えても――
中に入ってこない。
「……来ないね」
待っても、来ない。
完全に膠着状態だった。
結局。
シャボンクラブと引き篭もり亀に関しては、お香も陣地も使わず、正面から地道に戦って素材を集めることになった。
そして――
冬休み最終日。
結果として、両方の素材は規定量に届かなかった。
だが。
「本当によくやっていただきました」
迷宮公社の職員は、終始上機嫌だった。
「短期間でここまで集めていただけるとは、正直想定以上です」
笑顔でそう言われる。
不足分があっても、評価は変わらない。
むしろ――上がっている。
この依頼で得た報酬も大きい。
美々は、ほくほく顔で帰路についた。
――だが。
「ちょっと、美々」
家に帰るなり、呼び止められる。
「クリスマスもお正月も、ずっと迷宮だったでしょ?」
両親の、少し困ったような顔。
「家族と過ごす時間、少なすぎない?」
責めるような口調ではない。
だが、はっきりとした“苦言”だった。
「……あ」
そこで初めて、美々は気づく。
楽しくて、夢中で。
気づけば、外のことをほとんど見ていなかった。
迷宮の外にも、ちゃんと“日常”がある。
その当たり前を、少しだけ忘れていた。
「……ごめんなさい」
ちょっと反省。




