5話
法律や規則に関する講義は、三日間続いた。
迷宮関連法規、探索者の義務、資源管理、トラブル対応。
配られた分厚い冊子を使いながら、細かい説明が延々と続いた。
正直なところ、かなり疲れる。
だが四日目になると、講師が変わった。
教壇に立ったのは、白衣を着た男性だった。
年齢は四十代くらいだろうか。眼鏡をかけており、いかにも研究者といった雰囲気だ。
「今日からは、迷宮そのものについて説明します」
そう言って、スクリーンに迷宮の図を映し出した。
「まず大前提として――」
研究者は静かに言う。
「迷宮は、現在の科学ではほとんど説明できていません」
会場が少しざわつく。
迷宮が出現してから、すでに八十年。
世界中の科学者が研究しているが、
それでも分からないことの方が圧倒的に多いのだという。
「迷宮の入口は地球上に存在しています。しかし――」
研究者はスライドを切り替える。
「一歩中に入ると、そこは別の次元です」
迷宮内部の探索映像が映し出された。
果てしなく広がる洞窟。
巨大な森林。
地下とは思えないほど広い空間。
「迷宮内部は、地球の物理法則では説明できないほど広大です」
とても地下空間とは思えない規模らしい。
さらに、迷宮にはそれぞれ特徴があるという。
迷宮ごとに環境が違う。
出現するモンスターも違う。
手に入る資源にも偏りがある。
森のような迷宮。
洞窟型の迷宮。
遺跡のような迷宮。
世界には様々なタイプが確認されているらしい。
そして迷宮の多くは、階層構造になっている。
「階層を進むほど、モンスターは強くなります」
同時に、ドロップ品の価値や希少性も上がる。
つまり深い階層ほど危険だが、
その分だけ大きな利益がある。
ただし階層が進むほど難易度も跳ね上がる。
強力なモンスターだけではない。
罠。
極端な気温。
毒の霧。
重力異常。
そういった危険な環境が存在する迷宮もあるという。
さらに不思議な特徴も説明された。
迷宮は――
入るたびに内部構造が変わる。
同じ入口から入っても、前回と同じ道は存在しない。
まるで迷宮そのものが生きているかのように、構造が変化するのだ。
そして最後に、研究者はもう一つの特徴を説明した。
「迷宮は、同じ入口から入っても――」
スライドに図が表示される。
「探索者ごと、あるいはチームごとに別の迷宮空間へ接続されます」
つまり基本的に迷宮の中で、
知らない探索者と出会うことはない。
遭遇するのは、自分と同じチームの仲間だけだ。
迷宮の入口は一つでも、
中の空間は探索者ごとに分かれているらしい。
会場では驚いたような声が上がっていた。
「すげぇ……」
「ゲームみたいだな」
だが――
「……」
美々はぽかんとしていた。
研究者の説明は、途中から難しくなっていた。
量子力学がどうとか、
空間位相がどうとか、
次元干渉がどうとか。
専門用語がどんどん出てくる。
(……よく分からない)
ノートにメモは取っているが、
正直ほとんど理解できていない。
それでも一つだけ、はっきり分かったことがある。
迷宮は――
とんでもなく不思議で危険な場所だということだ。




