49話
冬休みが近づき、学校全体がどこか浮き足立っていた。
教室では、クリスマスに友達同士で集まる予定や、冬休みの過ごし方についての話題で持ちきりだ。笑い声があちこちで弾けている。
そんな中で――
美々は、いつも通りだった。
当然のように、誰からも誘われることはない。
けれど、それを寂しいと思うことはなかった。
今の美々にとって、一番楽しいのは迷宮だ。
探索のことを考えているだけで、時間はいくらでも潰せる。
人見知りを直す、人と話す度胸をつける――
最初に掲げていた目的とは少し違うが、
少なくとも「気にしない強さ」は、身についてきている気がした。
帰り支度を済ませ、そそくさと教室を出ようとしたその時。
「兎見さん」
声をかけてきたのは、小鳥遊ひよりだった。
「冬休みの予定は?」
不意の問いに、美々は少しだけ目を瞬かせ――
「……うひっ」
小さく笑ってから、
「何も。迷宮に行くだけ」
と答えた。
それをきっかけに、二人は迷宮の近況についてぽつぽつと話し始める。
どの階層まで進んだか、どんなモンスターが出たか。
他愛もない情報交換だったが、美々にとっては心地よい時間だった。
だが――
「えっ、兎見さんも迷宮行ってるの?」
「すごいじゃん、何階層くらい?」
いつの間にか、近くにいたクラスメイトたちが会話に加わってくる。
一気に、空気が変わった。
「え、あ、その……」
美々は思わず言葉に詰まる。
質問は次々と飛んでくるが、返す前に別の話題に移り、さらに別の声が重なる。
会話の速度が、まるで違った。
なんとか答えようとするが、気づけば話題は迷宮から外れ、ファッションや遊びの話へと移っていく。
もう、ついていけなかった。
それでも、輪の中から抜けることもできず、ただ曖昧に笑って頷く。
やがて――
「今度さ、一緒に迷宮行こうよ!」
そんな言葉で、その場は締めくくられた。
「……うん」
美々は小さく頷く。
けれど、それが本気の約束ではないことくらい、わかっていた。
きっと、社交辞令だ。
だから――
特に、期待もしなかった。
それでも。
(……いっぱい、話したな)
教室を出たあと、美々は少しだけ口元を緩める。
うまく話せたわけじゃない。
会話についていけたわけでもない。
それでも、
今日は「誰かと話した」という実感があった。
その小さな事実だけで、十分だった。
美々はどこか機嫌よく、帰路につく。




