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46話

美々たちは、改めて五階層から探索を再開した。

いきなり先へ進むのではなく、まずは足場を固める。

自分たちの力量。

連携。

そして――辰見の状態と【狐火】の運用。

それらを一つ一つ確認するように、慎重に進んでいく。

五階層。

六階層。

七階層――。

階層を降りるごとに戦闘を重ね、感覚を取り戻していく。

無理はしない。

だが、止まらない。

確実に、前へ。

数日後。

三人は、再び十階層へと辿り着いていた。

「……戻ってきたね」

美々が小さく呟く。

以前と同じ場所。

だが、自分たちは少し違う。

そう思えるだけの積み重ねがあった。

「火吹キツネ、来るよ」

警戒を強める。

現れたのは、赤い体毛を揺らす狐型のモンスター。

火吹キツネ。

口元に炎を溜め――吐き出す。

ゴウッ!

一直線に伸びる炎。

「避けて!」

三人が散開する。

以前なら、この攻撃に押されていた。

だが――

「今!」

兎見丸が前に出て注意を引く。

辰見が横から射撃。

そして――

ポンッ!

狐火が着弾。

炎に炎を重ねるように、蒼い火が絡みつく。

火吹キツネが怯む。

その隙に、美々が踏み込み――

ドンッ!

一撃。

確実に削る。

連携は崩れない。

流れるように、戦闘が終わる。

「……いけるね」

美々は静かに言った。

アルビノ個体――あの異常な個体でなければ、苦戦する要素はもうない。

辰見の動きも、完全に戻っていた。

それどころか――

「ちょっと良くなってる?」

狐火の発生も、飛びも、安定している。

わずかだが、威力も上がっているように感じた。

「問題ないね」

確認は十分。

美々は頷く。

「行こうか。次」

十階層より先へ。

新しい領域へ。

公社の情報では、この先から環境が変わる。

属性攻撃を使うモンスターが増える。

そして――

大型化。

これまでとは違う戦いが待っている。

そのまま、三人は十一階層へと足を踏み入れた。

「……でか」

最初に目に入ったのは、巨大な影だった。

横に広がる体。

硬そうな外殻。

そして、大きなハサミ。

シャボンクラブ。

その名の通り――

ブクブク、と口から泡を吐き出している。

「来る!」

次の瞬間。

無数の泡が放たれた。

ふわりと浮かび、ゆっくりと――だが確実に迫ってくる。

一見、遅い。

だが。

パァンッ!

一つが地面に触れ、弾ける。

思った以上に大きな音。

そして、強い衝撃。

「っ……!」

美々の体がわずかに押し戻される。

ダメージは小さい。

だが――

数が多い。

「近づけないタイプだね」

前に出ようとすれば、必ず被弾する。

ノックバックで距離を取られる。

もたつけば――

周囲に、さらにシャボンクラブが集まってくる。

泡の数が増える。

回避しきれない密度になる。

「詰むやつだ」

短く言い切る。

だから――

「撃ち落とすよ」

美々が構える。

【投擲】。

辰見も同時に動く。

スリングショット。

ビシュッ! ビシュッ!

投げる。撃つ。

飛んでくる泡を、一つずつ破裂させていく。

パァンッ! パァンッ!

連鎖する破裂音。

視界が開ける。

「今!」

道ができた。

その瞬間――

ドンッ!

兎見丸が踏み込む。

一直線に突っ込む。

残った泡を多少受けながらも、止まらない。

シャボンクラブがハサミを振り上げる。

巨大な一撃。

振り下ろし。

ガンッ!!

兎見丸が盾で受け止める。

衝撃が響く。

だが、受けきる。

「止めた!」

その一言で十分だった。

美々が一気に距離を詰める。

スレッジハンマーを振りかぶる。

「――いくよ!」

ドンッ!!

叩きつける。

同時に発動する【衝撃】。

見えない波が広がる。

表面ではなく――

内部へ。

硬い甲殻の内側へ、直接響く。

ピシッ。

小さな音。

ヒビが入る。

「そこ!」

ポンッ!

辰見の狐火が着弾。

ヒビの入った場所へ、正確に。

爆発。

そして――

蒼い火が、その隙間に入り込む。

じわり、と。

内側から焼く。

「……効いてる!」

シャボンクラブがわずかに身をよじる。

ハサミの動きが鈍る。

さらに――

香ばしい匂いが漂った。

「……あ、これ」

一瞬だけ、場違いな感想がよぎる。

だがすぐに集中を戻す。

「もう一発!」

追撃。

叩く。

燃やす。

削る。

数秒後。

シャボンクラブは光となって消えた。

「よし」

短く頷く。

同じ要領で、もう一匹。

さらにもう一匹。

連携は崩れない。

むしろ――

戦うごとに、精度が上がっていく。

数匹を倒し終えた頃には、動きはほぼ完成されていた。

「いいね、この形」

美々は満足そうに呟く。

遠距離で道を作る。

盾で受ける。

一点突破。

そこに、内部破壊と狐火。

役割が、綺麗に噛み合っていた。

その日の探索を終え、ドロップ品を確認する。

「……え?」

思わず声が出た。

地面に残っていたのは――

立派なカニ足。

それと――

「……洗剤?」

見慣れたボトル。

どう見ても、食器用洗剤だった。

「なんで?」

思わず首を傾げる。

だが迷宮では、こういうことは珍しくない。

「まあ、いいか」

カニ足は持ち帰ることにした。

その日の夜。

自宅の食卓。

「すごい……!」

両親が驚いた声を上げる。

茹で上げられたカニ足。

身がぎっしり詰まっている。

味も――

「美味しい!」

大好評だった。

「また取れたら持ってきてね」

母が笑いながら言う。

「……うん」

美々も、少しだけ笑った。

迷宮での戦い。

その成果が、こうして日常に繋がる。

悪くない。

そして――

洗剤も一つ、母に渡した。

「これも助かるわ」

翌日以降。

「またあったらお願いね」

そんな言葉が、自然と増えていった。

迷宮は危険な場所だ。

でも――

少しだけ。

生活を豊かにしてくれる場所でもあった。

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