45話
三人は五階層を進んでいた。
岩肌に囲まれた通路。
足音が乾いた音となって響く。
やがて――
「……いた」
前方の岩陰から、ゆっくりとそれは姿を現した。
岩石アルマジロ。
丸みを帯びた体を、岩のように硬い甲殻が覆っている。
表面はゴツゴツとしており、鈍い光を放っていた。
通常の武器では、ダメージが通りにくい厄介な相手。
だが――
「ちょうどいいね」
美々は小さく呟いた。
「試すには」
兎見丸が前に出る。
盾を構え、じりじりと距離を詰める。
岩石アルマジロがこちらに気づいた。
低く唸り、体を縮める。
次の瞬間――
ドンッ!
一気に転がり始めた。
岩の塊が、そのまま突っ込んでくるような勢い。
「来るよ!」
ガンッ!!
兎見丸が正面から受け止める。
盾と甲殻がぶつかり、鈍い衝撃音が響く。
重い衝撃が腕に伝わるが、踏みしめた足は一歩も退かない。
「辰見!」
美々が声を飛ばす。
辰見がスリングショットを構え――
ビシュッ!
スチール玉が放たれる。
――カンッ!
乾いた音と共に弾かれた。
甲殻に当たり、あっさりと弾き返される。
「やっぱりね」
想定通り。スリングショットとは相性が悪い。
「じゃあ――狐火」
辰見が小さく頷く。
手をかざす。
ぽっ。
蒼い火の玉が生まれる。
静かに揺れる、妖しい炎。
そのまま放たれる。
すっと滑るように飛び、岩石アルマジロへ――
ポンッ。
小さな爆発。
「……どう?」
一瞬、何も変わらないように見えた。
だが――
次の瞬間。
じわり、と。
甲殻の表面に、蒼い火が張り付いた。
「……お」
美々の目が細まる。
岩石アルマジロは嫌がるように体を丸め、勢いよく地面を転がる。
ゴロゴロと、岩と岩を擦りつけるように。
だが――
消えない。
蒼い火は、甲殻に貼り付いたまま離れない。
転がっても、擦り付けても、揺らめきながら燃え続ける。
その間にも、じわじわとダメージを与えていく。
動きが鈍る。
回転が乱れる。
「効いてる」
美々が確信する。
「いいね、止められる」
これまで硬さで押し切ってきた相手の“強み”が崩れる。
「兎見丸、押して!」
兎見丸が踏み込む。
ガンッ!
盾で体当たりし、岩石アルマジロの動きをさらに崩す。
「今!」
美々が一気に間合いへ。
スレッジハンマーを振りかぶり――
ゴンッ!!
重い一撃が叩き込まれる。
「もう一発!」
ポンッ!
辰見の狐火が重なる。
蒼い炎がさらに広がる。
焼ける。
削れる。
動きが、完全に止まる。
「これで――!」
振り下ろされる一撃。
ドゴンッ!!
鈍い破砕音。
岩石アルマジロの体が跳ね、そのまま光へと変わった。
静寂が戻る。
「……使えるね」
美々は小さく息を吐く。
狐火。
一発の威力は低い。
だが――
止める。
削る。
通す。
その三つを同時に満たしている。
「いいじゃん」
自然と笑みがこぼれる。
辰見を見ると、変わらず無表情のままだった。
それでも――
どこか、少しだけ“頼もしく”見えた。
「この調子でいこう」
三人は再び歩き出す。
それからしばらく。
五階層での戦闘は続いた。
岩石アルマジロ。
他のモンスター。
何度も、何度も戦う。
狐火を撃つ。
燃やす。
止める。
叩く。
その繰り返し。
辰見の動きも、少しずつ元に戻っていった。
そして――
狐火の扱いも、確実に上達していく。
蒼い炎は、さっきよりも長く残り、わずかに強くなっていた。
「……いい感じ」
美々は小さく呟く。
確かな手応え。
戦力が、一段上がった実感。
迷宮は危険だ。
でも――
それ以上に。
「やっぱ、楽しいね」
少しだけ笑って、次の敵へと向かった。




