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43話

辰見が再召喚できるまでの二日間。

美々は迷宮には潜らなかった。

いつもなら、少しでも強くなるために階層へ向かっていたはずだ。

だが今回は違う。

あの戦闘の光景が、どうしても頭から離れなかった。

白いキツネ。

崩れた陣形。

そして――辰見が噛み砕かれ、消えていった瞬間。

「……」

美々は小さく息を吐き、端末の画面に視線を戻す。

表示されているのは、迷宮公社の公式ホームページ。

その中でも、スキルデータベースのページだった。

検索欄に入力した文字は――【狐火】。

数秒の読み込みの後、表示された情報は驚くほど少ないものだった。

確認されている習得者は、すべてスキルブック経由のみ。

通常のスキル習得例は、一件も存在しない。

「……そんなスキル、あるんだ」

思わず呟く。

スキルは基本的に戦闘や経験によって自然と習得されるものだ。

だが、それすら確認されていないスキル。

それだけで、どれほど特殊かが分かる。

効果についての記述も簡素だった。

――蒼い火の玉を生成し、対象へ放つ。

たったそれだけ。

威力も、射程も、追加効果も書かれていない。

つまり、誰も“ちゃんと検証できていない”。

「……未知数ってことか」

美々は背もたれに体を預けた。

画面をスクロールする。

次に目に入ったのは、流通情報だった。

迷宮公社では買取を行っていない。

その理由は単純だ。

希少すぎて、適正価格を定められないから。

そのため、流通はすべてオークション。

そして――

「最高、1000万円……」

数字を見た瞬間、思考が止まりかけた。

一度のドロップで手に入る額ではない。

普通に生活していれば、まず手にすることのない金額だ。

これを売れば――

装備は一気に整う。

兎見丸の盾をもっと高性能なものにできる。

自分の防具も更新できる。

辰見の遠距離装備も、格段に良くなる。

安全性は、確実に上がる。

「……」

美々は端末の電源を落とし、静かに机に置いた。

そして、インベントリからスキルブックを取り出す。

古びた冊子。

手のひらに収まるほどの大きさ。

軽い。

けれど――

その価値は、あまりにも重い。

「……どうする?」

誰に聞くでもなく、呟く。

売るか。

使うか。

考えなくても分かる。

正しい選択は、売ることだ。

確実に強くなれる。

安全に、効率よく。

迷宮で無茶をする必要も減る。

「……でも」

指先に、わずかに力がこもる。

脳裏に浮かぶのは、あの戦闘だ。

アルビノの火吹キツネ。

速さ。

重さ。

そして、判断の速さ。

自分たちの連携は通じていた。

確かに、形にはなっていた。

それでも――届かなかった。

「足りない……」

ぽつりと漏れる。

何が足りないのかは、はっきりしている。

“決定打”だ。

状況をひっくり返す一手。

押し切る力。

あの時、それがあれば――

「……」

思考が、そこで止まる。

辰見が消えていく光景。

何度思い出しても、慣れない。

胸の奥が、じわりと重くなる。

「……あれ、もう一回やったら」

小さく呟く。

次も同じことが起きたら。

今度は守れるのか。

答えは――分かっている。

「無理だよね」

今のままでは。

どれだけ装備を整えても、あの“瞬間”を止められるとは思えない。

だったら――

「強くなるしかない」

美々はゆっくりと顔を上げた。

迷いは、まだ完全には消えていない。

それでも。

進む方向は決まった。

「……使う」

はっきりと、言葉にする。

スキルブックを売らない。

自分たちの力に変える。

だが――そこで、美々はもう一度考える。

誰が使うのか。

自分か。

それとも――

視線が自然と、何もない空間に向く。

そこに、辰見がいるはずだった場所。

「……」

三人で戦っていた。

前に出る兎見丸。

その後ろで支える自分。

さらに後ろから撃つ辰見。

あの形は、機能していた。

崩れたのは、力が足りなかったからだ。

形が悪かったわけじゃない。

「だったら……」

答えは、自然と出た。

「辰見に覚えさせる」

遠距離攻撃スキル。

それも、未知の威力を持つ可能性がある。

それを最大限活かせるのは――辰見だ。

自分が使えば、確かに強くはなる。

でも、それは“バランスを崩しての強さ”だ。

三人で戦うなら。

三人で強くなるなら。

その形を崩さない方がいい。

「……決まり」

小さく頷く。

スキルブックをそっと閉じた。

まだ使わない。

辰見が戻ってきてからだ。

「……ちゃんと渡さないとね」

少しだけ、口元が緩む。

どんな反応をするのか。

表情は無いけれど、きっと分かる。

ふと、頭の片隅にもう一つの選択肢が浮かぶ。

もし売っていれば――

1000万円。

確実に手に入ったかもしれない未来。

「……いいや」

すぐに消した。

それは、自分たちのやり方じゃない。

「自分たちで稼ぐ」

強くなって。

進んで。

勝って。

その先で手に入れる。

迷宮は――そういう場所だ。

危険で、理不尽で。

でも、その分だけ夢がある。

「次は……」

静かに呟く。

「ちゃんと守る」

二日後。

辰見が戻ってくる。

その時にはもう、迷いは無い。

三人で、もう一度。

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