40話
美々たちの探索は順調だった。
最初は辰見をかばいながらの戦いで、動きもぎこちなかった。
だが戦闘を重ねるごとに、辰見の動きは明らかに良くなっていく。
狙いは鋭くなり、無駄な動きも減った。
三人の連携も、自然と噛み合い始めていた。
そして――
数日後。
美々たちは十階層に到達した。
「ここが……」
十階層。
美々は少し緊張していた。
ここに出現するモンスターは――
火吹キツネ。
これまでのモンスターは体当たりや噛みつきなど、物理攻撃が主体だった。
だが火吹キツネは違う。
火を吹く。
初めての――属性攻撃持ちのモンスターだ。
そのため、火吹キツネを倒せれば初心者探索者卒業、という風潮がある。
「……よし」
美々はスレッジハンマーを握り直した。
「いこう」
少し進むと、物陰から一匹の火吹キツネが姿を現した。
薄茶色の、美しい毛並み。
だがその瞳は鋭く、完全にこちらを敵として認識している。
キツネは毛を逆立て、低い姿勢を取った。
威嚇。
いつでも来る構えだ。
美々たちも武器を構え、ゆっくりと距離を詰める。
その瞬間――
ボッ!
火吹キツネの口から炎が噴き出した。
横薙ぎの火炎。
炎が地面をなめるように広がり、美々たちの進路を遮る。
「っ……!」
思わず足が止まる。
威力はまだ低い。
だが、思っていた以上に範囲が広い。
近づけない。
「距離取って!」
美々の声で三人は一度下がる。
炎が収まる。
だが、その隙を突くように――
ドンッ!
火吹キツネが一気に距離を詰めてきた。
速い。
一直線に兎見丸へ体当たり。
ガンッ!!
盾で受け止めるが、衝撃で体勢が崩れる。
「くっ――」
その隙に――
ボッ!!
至近距離から炎が噴き出した。
「危ない!」
兎見丸は咄嗟に横へ跳ぶ。
炎がかすめ、空気が焼ける。
「……強い」
美々が小さく呟く。
速さも。
力も。
そして、攻撃の組み立ても。
初心者のボス的扱いのモンスターに相応しい強さだ。
再び距離を取り、睨み合う。
静かな緊張。
その中で、美々は一つの作戦を決めた。
「兎見丸、詰めて」
兎見丸がゆっくりと前に出る。
火吹キツネが警戒するように後退し、口元に炎を溜め始めた。
――来る。
その瞬間。
「辰見っ!」
ビシュッ!!
スリングショットの弾が一直線に飛ぶ。
コツン。
火吹キツネの顔面に命中。
「ギャッ!?」
炎が中断された。
「今!」
美々が踏み込む。
兎見丸も同時に距離を詰める。
ゴンッ!!
スレッジハンマーが横殴りに叩き込まれる。
体勢を崩したキツネが爪で反撃する。
ガリッ!
兎見丸の盾に引っかかる。
だが止まらない。
もう一発。
ゴン!!
さらに叩き込む。
火吹キツネは後退しようとする。
距離を取ろうとする。
口元に再び炎が集まる――
「撃って!」
ビシュッ!
辰見の弾が再び命中。
炎が散る。
撃たせない。
撃たせない。
撃たせない。
三人の動きが完全に噛み合っていた。
前衛が抑え、
中衛が崩し、
後衛が潰す。
「これで――!」
美々が大きく振りかぶる。
渾身の一撃。
ドゴンッ!!
鈍い衝撃音。
火吹キツネの体が大きく跳ね、そのまま地面に叩きつけられた。
数秒の静寂。
そして――
光となって消えた。
「……倒した」
美々は息を吐いた。
「やった……!」
思わず声が弾む。
確かな手応え。
その場に、ドロップ品が現れる。
美々はそれを拾い上げた。
柔らかく、艶のある毛皮。
「これ……」
火吹キツネの毛皮。
耐火性能が高く、探索者装備として人気の高い素材だ。
「すごいじゃん」
美々は思わず笑った。
十階層。
初心者卒業ライン。
それを――
確かに越えたのだった。




