33話
面談のあとも、美々の迷宮での生活は変わらなかった。
いや、むしろ以前よりも充実していた。
兎見丸という頼れる眷属がいる。
それだけで探索の安心感がまるで違った。
二階層の噛みつきモルモットも、今ではほとんど苦戦することはない。
最初は一匹ずつ慎重に戦っていた兎見丸も、今では複数のモルモットを相手にしても安定して戦えるようになっていた。
盾で噛みつきを受け止める。
体勢を崩したところにナイフを叩き込む。
その動きは、以前よりもずっと洗練されていた。
「……そろそろ次かな」
美々はそう呟き、三階層へと向かった。
三階層に出現するモンスターは洞窟コウモリ。
小型のコウモリ型モンスターで、素早く飛び回りながら鋭い牙で攻撃してくる。
最初は一匹だけ戦わせてみた。
洞窟の天井近くから滑空してくるコウモリに対し、兎見丸は盾を構える。
飛びかかってきた瞬間、盾で受け止め、すぐにナイフで反撃する。
一撃。
二撃。
少し暴れたあと、洞窟コウモリは光になって消えた。
「……大丈夫そう」
【盾術】を習得し、二階層で十分に戦闘経験を積んだ兎見丸は、三階層のモンスター相手でも危なげなく戦えていた。
美々はポーチから例のお香を取り出す。
モンスター寄せのお香。
火をつけると、細い煙がゆっくりと広がっていく。
しばらくして、天井の奥から羽音が聞こえてきた。
バサバサバサバサ。
一匹。
二匹。
三匹。
洞窟コウモリが次々と現れる。
だが、今回はそれだけでは終わらなかった。
洞窟コウモリには仲間を呼ぶ習性がある。
一匹が現れると、周囲のコウモリも集まってくる。
気が付けば、かなりの数になっていた。
「……いっぱい来た」
だが美々は慌てない。
スレッジハンマーを構える。
コウモリが一斉に突っ込んでくる。
「今!」
美々はハンマーを大きく振り抜いた。
ドンッ。
重い一撃で数匹をまとめて薙ぎ払う。
だが、攻撃のあとには必ず隙が生まれる。
その瞬間を兎見丸がカバーする。
盾で飛びかかってくるコウモリを受け止め、ナイフで切り裂く。
美々が攻撃し、兎見丸が守る。
兎見丸が押されそうになると、美々がハンマーで吹き飛ばす。
二人の連携は、以前よりもずっと自然になっていた。
戦闘は、お香の効果が続く限り終わらない。
コウモリが来る。
倒す。
また来る。
倒す。
その日も、迷宮の三階層で大量のコウモリを倒し続けた。
そんな日々が数日続いた頃。
その日もいつものように戦っていると、突然、美々の頭の中に情報が流れ込んできた。
「……あっ」
新しいスキルを習得した。
【衝撃】
【衝撃】は、攻撃が当たった瞬間に衝撃波を周囲へ放つスキルだった。
任意発動のスキルで、インパクト時に範囲ダメージを与えることができる。
つまり――
ハンマーとの相性が非常に良い。
「これ……強いかも」
さらにその日、兎見丸にも変化があった。
兎見丸が新たに習得したスキルは――
【挑発】
モンスターの注意を自分に向けるスキルだ。
さらに、このスキルには追加効果があった。
自分に注意を向けているモンスターが多いほど、身体能力に補正がかかる。
つまり、敵が多いほど強くなる。
「……すごい」
美々は思わず呟く。
兎見丸が【挑発】を使う。
コウモリたちが一斉に兎見丸へ向かう。
その瞬間、美々がハンマーを振るう。
「【衝撃】!」
ドンッ。
衝撃波が周囲に広がり、コウモリがまとめて吹き飛ぶ。
この連携は非常に強力だった。
兎見丸が敵を集める。
美々がまとめて吹き飛ばす。
洞窟コウモリの殲滅速度は一気に上がった。
その日も、お香の効果が切れるまで戦い続けた。
戦闘が終わると、周囲には大量のドロップ品が散らばっていた。
かなりの量だ。
「またいっぱいだね」
美々は回収を始める。
だが、途中で気付いた。
用意していた袋に――
入りきらない。
「……あれ」
まだ大量に落ちている。
袋はすでにいっぱいだ。
「も、もったいない……」
せっかくのドロップ品だ。
置いていくのはかなり惜しい。
どうしようか悩んでいると――
その瞬間。
また頭の中に情報が流れ込んできた。
「え?」
新しいスキルを習得した。
【インベントリ】
探索者の必須スキルと言われているスキルの一つだ。
別空間に荷物を収納することができる。
そして収納できる量は、探索者の実力によって変わる。
「やった!」
美々は思わず声を上げた。
さっそく試してみる。
落ちているドロップ品に手を触れる。
意識すると――
ドロップ品がすっと消えた。
【インベントリ】に収納されたのだ。
「すごい……!」
美々は嬉しそうに次々とドロップ品を回収していく。
袋に入らなかった分も、すべて回収できた。
そのまま迷宮を出て、迷宮公社の買取受付へ向かう。
そして、【インベントリ】からドロップ品を取り出し提出した。
カウンターの上に、次々と並ぶ大量のドロップ品。
受付の職員はそれを見て――
しばらく固まった。
そして小さく呟いた。
「……またですか」
完全に呆れた顔だった。




