表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/62

31話

兎見丸が【盾術】を習得してから、戦い方はさらに安定していた。

一階層で相手にしていたスライムでは、もうほとんど苦戦することはない。

スライムが体当たりをしてきても、兎見丸は盾で受け止める。

そして、隙を見てナイフで反撃する。

その動きは以前よりもずっと自然になっていた。

最初の頃はぎこちなく、まるで動き方を一つ一つ考えながら戦っているようだった。だが今は違う。盾を構える姿勢も安定していて、スライムの体当たりを正面から受けてもほとんどよろけない。

「……うん」

美々は少し離れた場所からその様子を見守りながら、小さく頷いた。

「もうスライムは大丈夫そうだね」

そう思うと、次のことを考え始める。

一階層のスライムは安全だが、その分経験値も少ないしドロップ品の価値も高くない。訓練には良かったが、ずっとここにいるわけにもいかない。

「二階層、行ってみようか」

美々はそう呟き、兎見丸を連れて階段を降りた。

二階層に出るモンスターは、噛みつきモルモット。

スライムよりも動きが速く、小さな牙で噛みついてくるモンスターだ。

ただし体は小さく、力もそこまで強くない。低層階の探索者にとっては比較的戦いやすいモンスターだった。

まずは様子を見ることにする。

一匹だけ戦わせてみる。

しばらく歩くと、すぐに一匹の噛みつきモルモットが現れた。茶色い体毛を逆立てながら、キーキーと鳴き声を上げている。

「兎見丸、お願い」

美々がそう言うと、兎見丸は前に出る。

モルモットが床を蹴り、勢いよく飛びかかってきた。

だが兎見丸は慌てない。

盾を構える。

ガンッ、と鈍い音が響いた。

噛みつきモルモットの牙が盾に当たり、攻撃は完全に防がれた。

その瞬間、兎見丸はナイフを振るう。

一撃。

二撃。

モルモットは素早く動くが、兎見丸も焦らない。盾で攻撃を受けながら、確実に反撃していく。

少し時間はかかったが、やがてモルモットは光になって消えた。

「……おお」

美々は思わず声を漏らした。

「ちゃんと戦えてる」

その後も何匹か一対一で戦わせてみる。

結果は同じだった。

時間は少しかかる。だが、盾で攻撃を防ぎながら確実にダメージを与えていく安定した戦い方だった。

「これなら……」

美々はポーチから小さな箱を取り出す。

モンスター寄せのお香。

何度も使ってきた、あのアイテムだ。

一本取り出し、火をつける。

煙が細く立ち上り、迷宮の空気にゆっくりと広がっていく。

しばらく待つ。

すると――

カサカサと、小さな足音が聞こえ始めた。

通路の奥から、噛みつきモルモットが姿を現す。

一匹。

二匹。

三匹。

「来た」

美々はスレッジハンマーを握り直す。

「兎見丸、行こう」

兎見丸が盾を構える。

モルモットが一斉に飛びかかる。

ガンッ。

盾で一匹の攻撃を受け止める。

横からもう一匹。

それは美々がハンマーで叩き潰す。

その隙に兎見丸がナイフを振るう。

戦闘はすぐに激しくなった。

モルモットは次々と現れる。

倒す。

また現れる。

倒す。

スライムのときよりも攻撃は激しい。

兎見丸も何度か噛みつかれ、小さくよろける。

それでも盾で受け止め、すぐに体勢を立て直す。

美々もすぐ横で援護する。

「左!」

声をかけると、兎見丸はちゃんと左を警戒する。

連携もかなり良くなっていた。

戦闘は一時間ほど続いた。

そして。

お香の煙が、ふっと消える。

同時にモンスターの出現も止まった。

「……終わった」

美々は息を吐いた。

周囲を見回す。

地面にはモルモットのドロップ品が散らばっていた。

牙。

毛皮。

かなりの量だ。

「またいっぱいだね」

美々は兎見丸に声をかける。

二人で回収を始める。

袋に詰めていく。

袋はどんどん重くなった。

回収を終え、美々は迷宮を出る。

そのまま迷宮公社の買取受付へ向かった。

カウンターに袋を置く。

受付の人が袋を開けて中を見る。

そして、少し驚いた表情になった。

「……これは多いですね」

「え、えへへ……」

美々は苦笑する。

計算が終わり、代金を受け取る。

だがそのとき。

受付の人が少し表情を変えた。

「少々、お時間いただけますか?」

「え?」

突然の言葉に美々は戸惑う。

「お話を伺いたいことがありまして」

責めるような雰囲気ではない。

だが、少しだけ真剣な口調だった。

美々は不思議に思いながらも頷く。

「は、はい」

受付の人に案内され、奥の通路へ進む。

一般の探索者が入らないエリアだった。

通されたのは小さな会議室。

テーブルと椅子が置かれた、静かな部屋だ。

「少々お待ちください」

そう言われ、美々は椅子に座る。

部屋は静かだった。

時計の音だけが聞こえる。

(な、何だろう……)

美々は少し落ち着かない。

怒られるようなことをした覚えはない。

それでも不安になる。

しばらくして、ドアが開いた。

入ってきたのは二人。

一人は若い女性職員。

もう一人はスーツ姿の中年男性だった。

男性の方は少し貫禄があり、上司のように見える。

女性職員が軽く頭を下げた。

「お待たせしました」

そして席に座り、話を始めた。

「実は最近、兎見さんの迷宮での活動について確認をさせていただきまして」

「え……?」

美々は思わず姿勢を正す。

女性職員は穏やかな口調で続けた。

「迷宮での活動時間に対して、提出されているドロップ品の量がかなり多かったためです」

そのため――

美々が提出している迷宮内の活動映像記録を確認したという。

探索者には義務がある。

迷宮内での活動を映像で記録し、提出すること。

トラブルや事故の確認、安全管理のためだ。

美々もヘルメットに小型カメラを取り付けて撮影している。

「映像の方は確認させていただきました」

女性職員はそう言った。

「ですが、改めてご本人からお話を伺えればと思いまして」

すぐに続ける。

「もちろん、咎めるためではありません」

「答えにくいことは、答えなくても大丈夫です」

そう言って柔らかく微笑んだ。

それでも。

美々は少し緊張していた。

小さく息を吸い、頷く。

「……わ、分かりました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ