29話
美々は迷宮の一階層で、お香に火をつけた。
細い煙がゆっくりと広がっていく。
効果が本当にあるのか、少し不安だったが――
その答えはすぐに現れた。
ぬるり、と床の影から現れる。
スライム。
一匹。
二匹。
そして三匹。
「……さっそく来た」
思ったより早かった。
だが、三匹同時となると兎見丸にはまだ厳しい。
「兎見丸、一匹!」
美々はすぐに判断する。
自分が二匹を引き受け、残り一匹を兎見丸に任せる。
スレッジハンマーを振り上げる。
ゴンッ。
スライムが弾ける。
もう一匹。
横から体当たりが来るが、スレッジハンマーを横に薙ぎ払い、スライムを倒す。
その間。
兎見丸はスライムと戦っていた。
体当たりを盾で受ける。
少しよろける。
それでも、ナイフで切りつける。
ぎこちないが、確実に攻撃している。
やがてスライムが消えた。
その瞬間。
また別の方向からスライムが現れる。
「……早い」
お香の効果だろう。
次々とスライムが出てくる。
美々は一匹を兎見丸に任せる。
もう一匹を自分が倒す。
そしてまた次のスライム。
スライムを倒す。
次のスライムが来る。
また倒す。
また来る。
矢継ぎ早に戦闘が続く。
兎見丸にもどんどん戦わせる。
もし危なそうなら、美々がすぐ援護する。
「兎見丸、後ろ!」
スライムが回り込もうとすると、美々が声をかける。
兎見丸はゆっくりだが振り向き、盾で体当たりを受ける。
最初よりも動きが良くなっている。
ナイフの振り方も、少しずつ鋭くなっていた。
戦闘が続く。
時間の感覚が少しずつ薄れていく。
ただひたすら。
スライムを倒す。
倒す。
倒す。
そして――
一時間ほど経ったころ。
お香の煙が、ふっと消えた。
それと同時に、スライムの出現も止まった。
「……終わった?」
美々は周囲を見回す。
もうスライムは出てこない。
静かな迷宮の空間に戻っていた。
「……すごい」
地面にはスライムゼリーがいくつも転がっている。
美々は数をざっと確認する。
「……百匹くらい?」
だいたいそれくらい倒していた。
一時間で。
普通に探索していたら、とても考えられない数だった。
「これは……」
思わず笑ってしまう。
もちろん、その分ドロップ品も大量だった。
スライムゼリーがあちこちに落ちている。
だが、美々は慌てなかった。
こういうことも起きるかもしれないと思い――
ドロップ品回収用の袋を用意していた。
「兎見丸、拾って」
兎見丸に指示する。
ピンクの眷属は、ゆっくりと動きながらゼリーを拾っていく。
それを袋に詰めていく。
美々も一緒に回収する。
袋はどんどん重くなっていった。
回収が終わるころには、かなりの量になっていた。
「……重い」
それでも気分は悪くない。
むしろ少し楽しい。
迷宮を出て、買取受付へ向かう。
カウンターに袋を置く。
「買取お願いします」
受付の人が袋の中を見て――
固まった。
「……え?」
袋の中には、大量のスライムゼリー。
受付の人はもう一度袋を見る。
それから美々を見る。
「これ……全部ですか?」
「は、はい」
少しだけ恥ずかしい。
受付の人は苦笑した。
「こんなにスライム倒してきた人、久しぶりですよ」
計算が終わり、代金が渡される。
美々はそれを受け取りながら思った。
――これは、使える。
この方法なら。
兎見丸にたくさん経験を積ませられる。
収入も増える。
「……いいかも」
美々は少しだけ手応えを感じていた。




