28話
迷宮の一階層で、スライム相手に兎見丸の訓練を続けて数日が経った。
毎日同じことの繰り返し。
スライムを見つけて戦わせる。
盾で受ける練習をさせる。
ナイフで攻撃させる。
最初はスライムとほぼ互角だった兎見丸も、少しずつだが動きが良くなってきていた。
スライムの体当たりを、盾で受ける。
そしてナイフで反撃する。
まだ動きはゆっくりだし、ぎこちない。
それでも確実に成長しているのは分かった。
「うん、良い感じ」
美々は少し嬉しくなる。
ただ――問題もあった。
「……時間かかるなあ」
スライム一体倒すのに、まだかなり時間がかかる。
さらに低層階ではモンスターの出現数が少ない。
スライムを探して迷宮内を歩き回り、見つけて戦って、倒して。
そうしていると、あっという間に時間が過ぎてしまう。
効率があまり良くない。
「……収入も少ないし」
美々は小さくため息をつく。
ドロップ品もスライムでは大したものが出ない。
このままだと兎見丸の育成にも、お金にも時間がかかりすぎる。
もっと効率よく、モンスターと戦わせる方法はないだろうか。
美々は迷宮周辺エリアの店をいくつか回ってみることにした。
探索者向けの店は色々ある。
武器屋。
防具屋。
そして、迷宮のドロップ品を扱う店。
そんな店の一つで、美々はある商品を見つけた。
棚の隅に置かれていた小さな箱。
「……モンスター寄せのお香?」
箱のラベルにはそう書かれていた。
説明を読む。
迷宮ドロップ品の一種。
このお香を焚いている間、モンスターの出現率が上がる。
さらに。
周囲のモンスターを引き寄せる効果もある。
「……へえ」
美々は少し興味を持った。
値段を見る。
10個入り、1500円。
探索者向けアイテムとしてはかなり安い。
「安いなあ」
そう思って店員に聞いてみると、理由はすぐに分かった。
「それ人気ないんだよ」
店員が苦笑する。
「危ないからね」
モンスターを集めるということは――
当然。
囲まれる危険がある。
迷宮では、チームで行動していても不測の事態が起きることがある。
それなのに自分からモンスターを呼び寄せるのは、かなり危険な行為だった。
さらに問題がもう一つある。
「どれくらい集まるか、その時次第なんだよ」
店員は肩をすくめた。
モンスターの数にはバラツキがある。
少しだけ寄ってくる時もあれば。
予想以上の数が集まることもある。
だから人気がない。
「なるほど……」
美々は少し考える。
確かに危険だ。
でも。
「……低層階なら」
美々は小さく呟く。
使うのは迷宮の一階層。
スライムが出る場所だ。
スライムがいくら集まっても。
今の美々なら、まず問題ない。
それに。
「兎見丸の訓練にも良さそう」
スライムがたくさんいれば、戦闘回数も増える。
経験もたくさん積める。
美々は箱を手に取った。
「……買おう」
レジで会計を済ませる。
袋の中には、モンスター寄せのお香が入っている。
「よし」
美々は少しワクワクしてきた。
もし上手くいけば、兎見丸の育成も一気に進むかもしれない。
その足で、迷宮へ向かう。
入口をくぐり、一階層へ降りる。
いつもの場所。
周囲にモンスターの気配はない。
美々は袋からお香を一本取り出した。
「……さっそく、使ってみよう」
どれくらいモンスターが集まるのか。
少しだけ不安。
でも、それ以上に楽しみだった。
美々はお香に火をつけた。
細い煙が、ゆっくりと迷宮の空気に広がっていく。
その効果が現れるまで、そう時間はかからなかった。




