27話
美々は、召喚した眷属をじっと見つめた。
薄いピンク色の、人型。
顔もなければ表情もない。
避難誘導の標識に描かれている、あの人型をそのまま立体にしたような姿。
不思議な存在だった。
「……名前、必要だよね」
なんとなく、そう思った。
美々は少し考える。
そして、小さく呟いた。
「兎見丸」
自分の名字、兎見から取った名前だ。
「今日から兎見丸ね」
ピンクの眷属――兎見丸は、相変わらず何も言わない。
けれど、なんとなく。
それでいい気がした。
その後、美々は兎見丸を送還した。
眷属はふっと光に包まれ、現れた時と同じように魔法陣の中へと消えていく。
まるで最初からそこにいなかったかのように。
「……どこから来て、どこに帰るんだろ」
美々は小さく呟いた。
もちろん答えはない。
迷宮には、こういう不思議がたくさんある。
それ以上考えても仕方がないので、美々はそのまま迷宮を出ることにした。
帰宅してから、美々はスマホを取り出す。
迷宮公社のホームページを開いた。
探索者向けの情報がまとめられているサイトだ。
その中にあるスキルリストを確認する。
スクロールして、探す。
何度も見直す。
けれど――
「……ない」
【眷属召喚】
その名前は、どこにも載っていなかった。
美々は少し考える。
習得者が公社に報告していないのか。
それとも。
「……私が最初?」
スキルの報告は義務ではない。
だから報告されていないスキルが存在してもおかしくはない。
とはいえ。
「……なんか、すごい」
自分だけのスキル。
そう思うと、胸が少し高鳴った。
美々はベッドに横になる。
明日からの探索のことを考える。
兎見丸とどうやって戦うのか。
どんなふうに育てていくのか。
考えれば考えるほど、楽しみになってくる。
そうしているうちに――
いつの間にか眠ってしまっていた。
翌日。
学校が終わると、美々はそのまま装備店へ向かった。
今日は自分の装備ではない。
兎見丸の装備を買うためだ。
棚を見ながら考える。
「……私と同じ武器だと」
同じ戦い方になる可能性がある。
眷属はスキルを覚える。
それなら。
違う武器の方がいいかもしれない。
少し悩んでから、美々は一つの武器を手に取った。
大振りのナイフ。
短剣というより、少し大きめのナイフだ。
「これなら……」
扱いやすそうだし、スレッジハンマーとは戦い方も違う。
それから最低限のプロテクターも購入する。
そして。
財布の中身を確認する。
「……あ」
貯金が、ほとんどなくなった。
思ったより装備は高い。
でも。
「また稼げばいいよね」
兎見丸と一緒なら、きっと大丈夫。
そう思うと、少しやる気が出た。
迷宮の一階層。
美々は兎見丸を召喚する。
光の魔法陣が現れ、ピンクの人型が姿を現す。
「よし、装備つけよう」
プロテクターを装備させる。
そしてナイフを渡す。
兎見丸はちゃんと握った。
美々はスライムを見つける。
「……あれと戦ってみて」
兎見丸が歩き出す。
スライムも、ゆっくり近づいてくる。
そして――
ぼよん。
スライムの体当たり。
兎見丸が少し後ろに下がる。
それから。
ぶん。
ナイフで切りつける。
ぺち。
スライムが揺れる。
また体当たり。
またナイフ。
一発食らったら、一発返す。
そんな戦いだった。
やがてスライムは倒れた。
「……うーん」
美々は腕を組む。
やっぱり、まだ弱い。
スライムにも負けそうな感じだった。
そこで美々は、もう一つ装備を渡すことにした。
噛牙の盾。
自分が使っていた盾だ。
「これも使ってみて」
兎見丸に盾を持たせる。
そして、もう一度スライムと戦わせる。
だが。
盾の使い方がおかしい。
スライムが体当たりしてきても、防ごうとしない。
その代わり。
盾で殴りかかっている。
「……あ」
美々は少し考える。
もしかして。
「盾の使い方、分かってない?」
なら。
やることは一つだ。
「見てて」
美々はスライムの前に立つ。
盾を構える。
スライムが体当たりしてくる。
ドン。
盾で受け止める。
そのまま――
スレッジハンマーで攻撃。
スライムが揺れる。
もう一度。
盾で受ける。
攻撃する。
何度か繰り返して見せた。
それから。
「じゃあ、もう一回やってみて」
兎見丸を前に出す。
スライムが近づく。
体当たり。
兎見丸が――
ぎこちなく盾を構える。
ドン。
体当たりを受け止めた。
それから。
ゆっくりナイフで攻撃する。
「……おお」
まだ動きは遅い。
ぎこちない。
でも。
ちゃんと盾で受けようとしている。
「……覚えてる」
兎見丸は学習していた。
美々は少し驚く。
そして。
少し嬉しくなる。
「時間はかかりそうだけど……」
美々は兎見丸を見る。
「なんとかなるかも」
そう思えた。




