22話
落ち込みながら、美々は迷宮へ向かった。
けれど入口が見えてくると、足が止まる。
……今日は、入る気になれない。
胸の奥に残る、学校でのもやもや。
それが消えてくれなかった。
美々はそのまま迷宮前を通り過ぎ、周辺エリアを歩き始める。
迷宮の周りには、探索者向けの店が並んでいる。
武器屋、防具屋、レストラン、宿泊施設。
特に用事はない。
ただ、なんとなく店先を眺めながら歩くだけ。
そのとき――
「兎見さん?」
後ろから声がかかった。
美々はびくっと体を震わせて振り返る。
「ウヒッ」
変な声が出てしまった。
声をかけてきたのは、クラスメイトだった。
小鳥遊ひより。
クラスでは学級委員長を務めている。
まじめで、クラスメイトからの信頼も厚い生徒だ。
肩より長い髪をおさげにして、黒縁のメガネをかけている。
「やっぱり兎見さんだ」
ひよりは少し驚いたように言った。
「兎見さんも探索者をやっているの?」
「え、あ……」
「ちょっと意外かも」
悪気はなさそうだった。
美々はしどろもどろになりながら答える。
「えっと……その……夏休み中に、資格を……」
「へえ、そうなんだ」
ひよりは興味深そうに頷いた。
「実は私も、夏休み中に資格取ったんだ」
「え?」
美々は目を丸くする。
ひよりは少し照れたように笑った。
「でもね、装備を買うお金がなくて。夏休みはずっとバイトしてたの」
「そ、そうなんだ……」
「今日は一緒に探索する友達と装備を見に来たんだけど」
ひよりは少し困ったように肩をすくめた。
「急に用事ができちゃって。結局一人で来ちゃった」
そして、少し身を乗り出してくる。
「ねえ兎見さん」
「は、はい」
「良かったら、装備品について教えてくれない?」
「えっ」
美々は戸惑う。
「わ、私……そんなに詳しくないよ……?」
「それでもいいよ」
ひよりはにこっと笑った。
「実際に探索してる人の話、聞いてみたいし」
そこまで言われて断るのも気が引ける。
美々は少し考えてから、小さく頷いた。
「……じゃあ、私が装備を買ったお店なら」
「ほんと? 助かる!」
二人は並んで歩き出す。
歩きながら、ひよりは色々と質問してきた。
「迷宮ってどんな感じ?」
「モンスターってやっぱり怖い?」
「低層ってどんなのが出るの?」
美々はたどたどしく答える。
自分が経験したこと。
出会ったモンスター。
行動の特徴や、倒し方。
「洞窟コウモリは……上から来るから、気をつけた方がいいとか……」
「へえ」
ひよりは真剣な顔で頷く。
ときどきメモ帳を取り出して、さらさらと書き込んでいた。
「……すごいね」
「え?」
「兎見さん、ちゃんと観察してるんだね」
思いがけない言葉だった。
美々は少し戸惑いながら、視線をそらす。
「……そんなこと、ないよ」
それでも。
さっきまで胸の中にあった重たい気持ちが、ほんの少しだけ軽くなっていた。




