21話
夏休み明けの朝。
校門をくぐると、見慣れた制服の生徒たちが次々と登校してくる。
日焼けした顔。
髪型を変えた生徒。
どこか雰囲気が変わったクラスメイトたち。
夏休み前とは、少し違う空気が学校に流れていた。
美々もその中を歩く。
以前よりも、ほんの少しだけ胸を張って。
――迷宮に行っていたんだから。
自分の中では、大きな変化のはずだった。
だけど教室の前に立つと、急に心臓がドキドキし始める。
ガラッ。
扉を開ける。
「おはようございます……」
消え入りそうな声だった。
教室にいたクラスメイトは、誰も気づかない。
それぞれ友達と話していて、美々の声は雑談の中に埋もれてしまった。
……やっぱり。
少しだけ肩を落としながら、自分の席へ向かう。
椅子に座り、小さく息を吐いた。
迷宮でモンスターと戦う度胸はついた。
だけど、人と話す度胸は――ついていなかった。
そもそも夏休みの間、美々はほとんど迷宮にこもっていた。
まともに会話した相手は両親くらいだ。
コミュニケーション能力は、何も変わっていない。
席に座ったまま、小さくため息をつく。
これじゃ、迷宮の話なんてできない。
夏休み前に妄想していたこと――
迷宮の話でみんなに囲まれて、人気者になる未来。
そんなものは、どこにもなかった。
「俺、迷宮で三十階層まで行ったぜ」
後ろの席から声が聞こえる。
「マジ? スキルとかどれくらい取った?」
「結構覚えたぞ」
楽しそうな会話。
美々は机に視線を落とした。
……三十階層。
自分は五階層。
覚えたスキルも二つだけ。
クラスメイトと比べると、話題としては弱すぎる。
結局。
その日、美々は誰とも迷宮の話をしなかった。
何も変わらないまま、放課後になる。
帰り道。
夕焼けの中を歩きながら、美々は小さくつぶやいた。
「……全然、変わってないな」
少しだけ、目の奥が熱くなった。




