2話
放課後。
兎見美々は寄り道もせず、まっすぐ家へ帰った。
部活にも入っていない。
友達もいない。
だから放課後に行く場所もない。
自宅に着くと、制服を脱ぎ、中学時代に使っていたジャージに着替える。
それからベッドに寝転がり、スマホを取り出した。
画面に表示されている検索ワード。
――迷宮探索者資格 取り方
美々は改めて調べ始めた。
迷宮探索者資格は、思っていたよりもずっと簡単に取れるらしい。
未成年でも保護者の許可があれば取得可能。
必要なのは、約十日ほどの講習を受けること。
講習費用は十万円。
それだけで、探索者になれる。
理由は単純だった。
日本はもともと資源に乏しい国だ。
そして現在、日本の鉱物資源の多くは迷宮頼みになっている。
つまり国としては、探索者を増やしたいのだ。
もちろん危険はある。
迷宮出現当初と比べれば安全性は大きく向上している。
だが、それでも毎年のように行方不明者は出ている。
さらに、モンスターとはいえ生き物を殺すことに抵抗を感じる人も多い。
だから日本政府は、様々な方法で探索者を増やそうとしていた。
――資格の取りやすさも、その一つだった。
「……」
美々はスマホを置き、机の引き出しを開ける。
通帳と、小さな貯金箱。
貯金を確認する。
講習費用の十万円。
そして最低限の装備。
――ぎりぎり、足りる。
問題は一つだけだった。
両親の許可。
未成年が探索者になるには、保護者の同意が必要なのだ。
美々はしばらく天井を見つめた。
(……言わなきゃ)
意を決して、美々は立ち上がった。
リビングに向かう。
両親は夕食の準備をしていた。
「あの……」
声が小さくなる。
「……迷宮に行きたいの」
語尾が、弱く消えそうになる。
両親は一瞬きょとんとした。
父が首をかしげる。
「どうしてだい? 急に」
美々は言葉を探した。
うまく話せる自信はない。
それでも、言わなければならない。
「……今のままじゃ、ダメだと思って」
ぽつり、と言う。
学校でうまくいっていないこと。
友達がいないこと。
そして。
変わるきっかけがほしいこと。
言葉は途切れ途切れだったが、美々は必死に説明した。
「うーん……」
父は腕を組む。
「でも、美々は運動もあまり得意じゃないだろ?」
母も少し心配そうな顔をしている。
しばらく沈黙が続いた。
美々は黙って、二人を見つめる。
逃げずに。
真剣な目で。
やがて父は、小さくため息をついた。
「……わかった」
美々は目を瞬かせた。
「本気なんだな」
そして父は続ける。
「ただし条件がある」
指を一本立てた。
「無茶をしないこと」
二本目。
「学校の成績を落とさないこと」
三本目。
「そして――ちゃんと準備をすること」
美々は何度も頷いた。
「……うん」
「約束します」
その日の夜。
美々はさっそく必要書類を揃え、講習の申し込みをした。
ちょうど、もうすぐ夏休みに入る。
夏休みの間に講習を受ける。
それまでに装備を揃え、準備をする。
スマホの申し込み完了画面を見ながら、美々は小さくつぶやいた。
「……探索者」
胸が少しだけ高鳴る。
兎見美々の、迷宮探索者への第一歩だった。




