14話
スキルを習得し、さらに噛牙の盾も手に入れたことで、二階層の噛みつきモルモットは美々にとってすっかり脅威ではなくなっていた。避けて殴るだけで簡単に倒せるようになり、戦闘にも少しずつ余裕が出てきた。
そのため美々は、ついに三階層へ挑戦することにした。
三階層に出現するモンスターはコウモリ。正式には「洞窟コウモリ」と呼ばれている。公社のホームページによれば、羽を広げると四十センチほどで、素早い動きが特徴。特に頭上からの奇襲に注意と書かれていた。
美々はいつものように、慎重に周囲を見渡しながら進む。
その瞬間――
ゴンッ。
突如、頭に衝撃が走った。
「っ!」
それほど強い衝撃ではないが、美々は慌てて体勢を立て直す。
見上げると、一匹の洞窟コウモリが周囲を飛び回っていた。
次の瞬間、洞窟コウモリが美々へ向かって一直線に飛んでくる。
速い。
だが、これまでの戦闘で身体能力が向上している美々の目には、しっかりとその動きが捉えられていた。
飛んでくるタイミングに合わせて警棒を振る。
カウンター攻撃のつもりだった。
当たった――そう思った瞬間。
洞窟コウモリは、ひらりと空中で体をひねり、警棒をかわす。
そのまま勢いを殺さず、美々の顔面へ突っ込んできた。
バシッ。
フェイスガードが直撃を防ぐ。
「うわっ」
頭が仰け反る。だがダメージはそれほどない。
美々はすぐに警棒を振り直す。
しかし――
ひらり。
また躱される。
攻撃をするたび、洞窟コウモリは空中で器用に身をかわす。そして隙を突いて美々へ攻撃を仕掛けてくる。
盾で受けようとしても、盾に当たる直前で方向を変えられてしまう。
なかなか倒せない。
その時。
ドン。
背中に衝撃が走った。
振り返ると、もう一匹の洞窟コウモリがいた。
「えっ……」
どうやら仲間を呼ぶ習性があるらしい。
二匹に翻弄されているうちに、さらに一匹、また一匹と増えていく。
気付けば、周囲を飛び回るコウモリの数が増えていた。
美々は焦り始める。
ダメージ自体は小さい。
だが、大勢から攻撃を受け続けるのは危険だった。
美々はとっさに壁へ移動する。
背中を壁につけ、後ろからの攻撃を防ぐ。
そして警棒を振るった。
もう作戦も何もない。
ただ、がむしゃらに。
警棒を振る。
盾でも殴る。
両腕を振り回す。
洞窟コウモリはどんどん増える。
だが――
増えすぎたせいで、適当に振った警棒にも当たるようになってきた。
そして分かった。
洞窟コウモリの耐久力は低い。
当たりさえすれば、一撃で倒せる。
警棒を振る。
一匹消える。
また振る。
もう一匹消える。
倒しては増え。
倒しては増え。
その繰り返しだった。
しかし、洞窟コウモリを倒している限り、美々の身体能力は少しずつ向上していく。
やがて――
増える速度より、倒す速度の方が速くなっていた。
最初は捉えきれなかった洞窟コウモリの動きも、次第に見えるようになっていく。
そして。
気付けば――
戦闘開始から三時間が経っていた。
洞窟コウモリは、すべて消えていた。
「はぁ……っ……はぁ……」
息を切らしながら、美々は周囲を見渡す。
床には大量のドロップ品が散らばっていた。
美々は急いで拾い集める。
戦闘の邪魔にならないよう、少し大きめのウエストポーチを着けていたが――
それでも入りきらないほどの量だった。
持てるだけ持ち、急いで三階層を離れる。
迷宮を出て買取受付に向かうと、受付の職員はドロドロでヘロヘロの美々を見て驚いた。
洞窟コウモリのドロップ品は――
コウモリの羽を模した鉄製の小さなス投げナイフ。
しかし。
特別な効果はなく、切れ味もあまり良くない。
そのため実際に武器として使う探索者はほとんどおらず、資源としての価値しかないと言われた。
美々は、ぐったりしながら思った。
(あんなに苦労したのに……)




