風走り隊
彼が隊を作ろうとしたことは、一度もない。
気づけば、
後ろに人がいた。
最初は二人だった。
戦のたび、
彼の動きを真似る者が現れた。
盾を持たない。
重い鎧を脱ぐ。
投げて、走る。
だが、三戦ももたない者がほとんどだった。
投げるのは簡単だ。
回収が難しい。
拾うために止まる。
拾う場所を間違える。
戻る方向を誤る。
それだけで、死ぬ。
残ったのは、五人。
誰も名を名乗らなかった。
名を呼ぶ暇がないからだ。
合図もない。
笛もない。
あるのは、速度だけ。
誰かが遅れれば、
全員が引く。
一人で突っ込む者はいない。
「置いていくのは、敵だけだ」
それが、いつの間にか決まりになった。
戦場で、
誰かが言った。
「あいつら、風みたいだな」
それを聞いたのが、始まりだった。
「風走り」
誰かがそう呼び、
誰も否定しなかった。
彼自身は、
何も言わなかった。
彼らは、前線に立たない。
だが、
前線が崩れる前に現れる。
敵の横。
背後。
退路。
現れて、
投げて、
走る。
そして、消える。
重装の兵が言った。
「あいつらが動くと、敵が詰まる」
弓兵が言った。
「狙えない。速すぎる」
敵が言った。
「どこから来る?」
彼らは勝たない。
だが、
負けさせない。
それが、評価だった。
ある夜、
焚き火を囲んで、誰かが聞いた。
「俺たち、何なんだ?」
彼は少し考えた。
「先に走ってるだけだ」
それ以上の説明は、なかった。
翌朝、
五人は自然に散開した。
合図なし。
指示なし。
だが、
全員が同じ方向へ走った。
その戦の記録に、
「風走り隊」という文字は残らなかった。
だが、
生き残った兵の間では、
こう言われるようになる。
「あの風の後ろにいれば、死なない」




