風は残らない
戦は、終わった。
正確には、
終わったことになった。
勝者が発表され、
戦功が読み上げられ、
名が記録された。
そこに、
風走り隊の名はなかった。
陣営の端で、
風走り隊は装備を整えていた。
誰も急がない。
だが、
誰も長居もしない。
ここは、止まる場所ではない。
「俺たちの働き、
誰も知らないですね」
誰かが言った。
彼は、肩をすくめた。
「知ってるやつは、生きてる」
英雄が通り過ぎる。
人に囲まれ、
声をかけられ、
笑っている。
英雄は、
一瞬だけ、こちらを見た。
視線が合う。
英雄は、何か言いかけて、
やめた。
そして、
そのまま行った。
夜、
酒が配られた。
風走り隊は、受け取らなかった。
酔うと、
走れなくなる。
その晩、
彼は地図を燃やした。
印の付いた場所。
抜け道。
回収地点。
すべて、灰になる。
「残さないんですか」
彼は言う。
「残ると、真似される」
「それが悪い?」
「遅い真似は、死ぬ」
翌朝、
風走り隊は解散した。
命令ではない。
自然に、だ。
それぞれが、
別の方向へ走った。
彼は、最後に言った。
「同じ速度なら、
また会う」
約束ではない。
事実だ。
その後、
似た戦い方が、各地で見られるようになった。
投げて、走る者
盾を持たない斥候
名を名乗らない兵
だが、
完全に同じ者はいなかった。
記録官が、誰かに聞いた。
「風走り隊とは?」
答えは、こうだった。
「知らない。
でも、あの日は死ななかった」
彼の名は、
どこにもない。
だが、
戦場の外れを走る影だけは、
確かに、残った。




