08.王都の雰囲気
「おぉ……」
王都ルネヴァ。
国のほぼど真ん中にある都市で、城を起点に円形状に各区画が広がっている。遠目に見ても綺麗に、正確に整いすぎていて、アリスティドは思わず声が出てしまった。
「森を眺めているより重厚な感覚だな」
「そりゃそーよ。王都だし、建国祭前だもん」
アリスティドの呟きに、いつも通りのナディアのツッコミが返ってきた。見上げれば色とりどりの花びらや紙吹雪が綺麗に舞っている。行き交う人々にぶつからないよう、避けながら進んでいく。
メルはアリスティドの腕の中から逃げるように紙吹雪を必死に掴もうとしている。
(なんだか場違いな気分だ)
そう思いつつ、人の波をかき分ける。
あの出来事をなかった事にしようとするように。
現在、アリスティド、ナディア、メルの3人で行動中。王都まで連れてきてくれたジャックはというと、娘が丁度王都に来ているらしい。会ってから先にクラッソ村へ帰るとのことだ。
曰く、アリスティドの父であるニコラスが「いつ解決するかわからんから、息子達は放って戻って来い」と言ったようだった。
「この後どうする? このまま王様に謁見の申し込みをしましょうか?」
アリスティドが暗い顔をしているのに気付き、ナディアが声をかけてくる。第一優先はメルの親を探し出すことなので、それが良いだろう。
「そうだな……うぉっと」
思わず前のめりになってしまった。抱き抱えているメルも同じく、前のめりになったからだった。
メルが目を輝かせている方向を見ると、それはおもちゃ売り場の屋台。木製の小鳥の置物やら紙でできた箱など、色々並んでいる。
「あいちゅ、こえ、これ!」
拙い言葉でメルは何かを訴えてくる。指差した先には、桃色のリボンがついた小さな髪飾り。どうやら、欲しいらしい。
「遊びに来たんじゃないんだけどな……」
「まぁまぁいいじゃない。おじ様、これ1つくださいな」
「たいな!」
「あいよ!」
アリスティドの制止をよそに、ナディアは鞄から布の巾着袋を取り出して、躊躇いなく購入した。そして髪飾りをアリスティドに渡す。
「はい」
「あ、お金。僕が出すよ」
「いいわよ。それよりメルにつけてあげて」
「て!」
女性2人からの圧に負け、アリスティドはしぶしぶ髪飾りを受け取る。髪飾りなんて、つけてあげたことは、ない。
「えーっと、こんな感じか……?」
髪が崩れないよう不慣れた手付きで、髪飾りをつけてやる。つけた一瞬、手に温かみを感じたような気がする。メルは嬉しそうに「あぅっ!」と声を上げた。
「嬢ちゃんよかったなー! 母ちゃん父ちゃんにお礼言うんだぞ〜。あとこれおまけな、また来てくれよ〜!」
「「んなっ……」」
屋台のおっちゃんは気前よく3人分のクッキー入りの小袋を渡してくれた。メルはご機嫌で、太陽のように笑っている。
「私……まだ17歳なのに……!」
「ぷっ……くははっ……」
「ちょっとなんで笑うのよー!」
ナディアはショックを受けているのを見て、アリスティドは笑いながら鞄にクッキーをしまった。
「……僕は父ちゃん、か」
そう。アリスティドはメルにとって父ではなく、夫になる予定なのだ。この場で理解しているのはアリスティドとナディアの2人だけ。この後どうするべきか、考える前に胸がざわつきだす。
「…………あいちゅ」
「ん?」
メルが声をかけてきた。アリスティドがメルを見ると同時に、ぺちとアリスティドの頬が小さく音を鳴らす。
不思議な感覚があるような気がして、少しどきりとした。
「どうしたメル」
「あいちゅ、あえ」
メルがずらりと並ぶ屋台の一角を指差していた。
甘い香りが鼻をくすぐる。もしかして――
「……あれ食いたいのか?」
ぐうぅぅ〜……
返事の代わりに、メルのお腹が鳴る。
「ふふ、メルって結構食いしん坊なのね」
「むぅー!」
ナディアが呟きながら笑った。メルはナディアを見て少し怒っている。アリスティドとしては早く城に行きたいところである。
「……これ買ったら城に向かうからな」
「あーいっ!」
アリスティドはしぶしぶ、革の小銭入れを取り出しながら声をかけた。
「なんだかんだ優しいじゃない」
「……うるさい」
蒸しパン屋の列に並びながら、ナディアの言葉を聞き流した。
建国祭前の賑わいを通り過ぎながら、階段を登っていく。屋台は徐々に減り、代わりに立派な屋敷が立ち並びはじめた。
階段を登りきると、目の前には商業地区と貴族街を区切るように、そびえ立つ銀色の門。王宮は更に遠くの方に見えている。
「なぁ、これ魔法で一気に……登れないのかな」
アリスティドはナディアに聞いてみる。門を抜けた先は階段のが上まで続いており、自然と足が止まってしまう。
「無理ね〜。建国祭の期間は転移魔法陣を全部止めるの。あとは魔法を使うのにも許可証がないとダメ。ほら、人がごった返すから危ないでしょ?」
そうなのか、とアリスティドは軽く返事をする。王都はおろか建国祭にも、幼い頃に両親に数回連れられただけ。物心ついたときには建国祭の間は王都へ行く父の代わりに、村守る役割をさせられていた。
「連れていってほしい〜って、昔アリス泣いてたわよね」
「……そうだっけ」
ころころと笑いながらナディアは続ける。
「お父様のお仕事を継ぐなら、覚えておくといいと思うわ」
ナディアの言葉に、アリスティドは思わず口を歪ませた。父の職を継ぐとまだ決めていないのに。周囲の期待はアリスティドが成長するたびに、高まっていく。
拳を握りしめた時、メルがアリスティドの服の袖をくい時引っ張った。
「ん、ん!」
メルはそびえ立つ、遠くの城を指差していた。早く行こうと言っているように感じたアリスティドとは、ふぅと息を吐く。
「それじゃあ、諦めて……登りますか」
「そうするしかないからね。さぁ行くわよ」
「ぁいっ!」
もし僕が国王だったら、祭りの日だろうが魔法使いたい放題なのに……。そう考えながらも3人で重い足取りを、階段へと向けた。




