表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/40

04.君の名前

 そして、アリスティドは思い返していた。


 ニコラスは目の前の問題を、早く解決しないと気が済まない性格。それは睡眠を削っても行われる、と。

 彼の息子なら嫌でもわかる。

 それは息子へも促されるのだ。


 恐らくアリスティドは、この子の親を直ぐに探しに行かねばならない。ましてやとても小さく、か弱い幼女がここに独り。家族はかなり心配しているはずで、一刻も早く無事を伝えるべきだった。


 だが、一体どうやって。ただでさえ広いこの国だ。国民全員把握出来るような情勢でもない。探すのはかなり難しいであろう。

 アリスティドは方法を考える。思考の渦に囚われた息子を見かねて、ニコラスが言う。


「とは言えアリスティドまだ15歳。国も広大で人1人探すのもかなりの時間がかかろう」


 続けて、


「幸いにも私は国王と、30年来の付き合いがある。必ずや力になってくださるだろう」


 と、言い放つ。

 ということは、つまり。


「……僕に王都に行け、と?」

「そういうことだ。私の跡を継ぐにも、まだまだ経験は必要だぞ、アリスティド」

「うー!」


 幼女がアリスティドの代わりに、元気良く返事をした。





「……ねえアリス」


 隣に座るナディアが、アリスティドに呼びかける。

 村の少し外れた場所にある丘で、2人は並んで座っていた。小さな星々が夜空で瞬く、とても落ち着く場所だ。


 あれから、話は王都へすぐ向かうこととなった。

 出発は明日の朝。

 アリスティドと幼女、そして何度か王都に出入りし王宮にも出向いたことのある、ナディアが同行することに。年が近く、仲が良い者がいた方が良いだろうという、ニコラスなりの気遣いだった。


 ニコラスが国王に宛てた手紙を書いてくれるようだが、どういった内容になるのやら。ナディアの言葉に返事をする。


「どうしたんだ?」

「……明日から、どうなるのかしらね」


 アリスティドは勿論、ナディアにも、予想していなかった事が起こり始めている。2人揃って深い溜め息をついた。幼女は眠くなったらしく、アリスティドの部屋で寝ている。

 巻き込まれたあの子が、一番可哀想だ。


「まあ……そうだなぁ。当分はあの子の親を探してやるのが、目標かな」

「そうね、あんな小さな子が家族と離ればなれなんて、寂しいわよきっと」


 不安なのは自分達だけではない。

 今独りぼっちのあの子も、きっと不安なはずだ。それなら自分達が何をするべきか、答えは見えてくる。


「……決めたよ」

「なにを?」

「あの子の名前」


 親を探すのは勿論の事、いつまでも呼び名がないのも可哀想で。ナディアが言ったように名前をつけてあげた。


「なんて名前?」

「秘密」


 親が見つからなかったとしたら。


「これから先ずっと、あの子の大切な名前になるかもしれないだろ? だから、一番にあの子に聞かせてあげたい、かな」

「……そうね、それがいいと思うわ。あの子の反応が楽しみね」

「……そうだな」


 ナディアは納得してくれたようだ。

 喜んでくれるかなんて分からない。でも、名前を呼んであげるのが楽しみであった。一番名前を呼んであげれるのは、きっとアリスティドなのだから。

 それからくだらない話を少しして、程なくしてから2人は眠りについた。





 夜は明け、出発の時。雲一つない青空が、今日の旅路を出迎えてくれているようだった。

 いつもより早く目が覚めたアリスティド。荷物の最終確認をする。昨日幾度となく魔力を使った為か、幼女はまだ寝ている。


 とても心地よさそうに寝ているので、出来れば起こしてあげたくはない。だがいつまでも起こさない訳にはいかず、肩をぽんぽんと軽く叩いた。

 物凄く嫌そうな顔をしながら、彼女はゆっくりと目を開ける。


「おはよう、メル」

「………?」


 聞き慣れない単語に、寝ぼけ眼で首を傾げている。アリスティドは目の前の幼女――メルを抱き抱える。


「今日から君の名前は、メルだ」

「……!」

「意味は…… 。――まだ内緒」


 アリスティドは、恥ずかしさで胸が苦しくなる。

 だが分かってくれたのか、メルは一気に顔をぱっと輝かせた。その温かな笑顔を見たアリスティドは、つい嬉しくなってしまう。


「メル。眠いかもしれないけれど、今日はおでかけだ」


 アリスティドに抱えられながら、メルはにんまり顔で足をジタバタさせた。こうも喜んでいそうな素振りをしてくれると、名前を付けた甲斐があるものだ。

 服を着替えさせようと、メルの服に手をかける。


「ちょっとお待ちなさぁーい!!!」


 バン! と勢いよく開かれた部屋の扉に、アリスティドもメルも驚いた。乱れた髪と息切れを整えながら、ずかずかとナディアがこちらに向かってくる。


「ど、どうした?」

「ど……どうしたも、こうしたも、な、な、ないわよ!」


 何やら怒っているような雰囲気を出しながら、アリスティドからメルを奪う。


「仮にもアリスのお嫁様になるかもしれない乙女の裸を見るなんて、アリスには100年程早くてよ!」


 そういえば、昨日メルの寝巻きを着替えさせたのはナディアだった。アリスティドは自分とメルの分の荷物を持って、大人しく外に出る。

 玄関まで行こうと足を進めたその時、アリス様、と声をかけられた。振り返るとデズモンドが立っている。


 アリスティドの持っている荷物をデズモンドが持ち、そのまま2人で玄関へと向かった。それにしても、とデズモンドが口を開く。


「アリス様が無事に15歳になられて、デズモンドは嬉しゅうございます」

「みんなやデズモンドのおかげだよ」

「こうしてお館様の代わりに、王都に向かわれるほどに成長なされて……」


 デズモンドが目頭を抑える。

 その言い方になにか引っ掛かりを感じた。


「……父さんの代わり?」

「あっ、」


 しまった、と口を抑えたデズモンドだが、もう遅い。


「僕は父さんの代わりに、王都に行くのか?」

「あっ……いえ……」


 父・ニコラスは忙しい。王都に何度も出向く用事も、あると聞いている。呼ばれると言うことは、それ相応の事があるからだろう。だがそれを、息子に押し付けたとは。

 だがデズモンドは別に悪くない。

 悪いのは父である。


「わかったよ、ありがとうデズモンド」

「ですが……」

「デズモンドは悪くないから。結局王都には行かなければいけないし、ちゃんと行くよ」

「アリス様………っ」


 再び俯き目頭を抑え出すデズモンドにアリスティドは思う。まだ15歳になったばかりなんだけどな、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ