ゼフィールとナディア
完結済み本編と合わせて、よろしくお願いいたします!
「ねぇ、ゼフィール。なんでメルに会いに来ないのよ」
「……あ? 何故俺が。用はない」
「7年も会ってないのよ? 普通会うでしょ」
「7年だろうが700年だろうが行かん」
「なんでよー!!」
精霊の里内、ゼフィールの屋敷にて。言い争う2人の姿はあった。メルが無事に帰ってきて数日が経ったが、ゼフィールは顔を出す様子もない。
ナディアはそれに苛ついていた。そしてそれを、にっこり見守るエリュー。「ボクもいますよ……」と呟いたが、2人にかき消される。
ゼフィールは本を読みながらの空返事。それは、ナディアを余計に苛つかせた。頬をぷくっと膨らませ、腕を組む。
そんな2人を見物しながら、エリューは紅茶を一口飲んだ。ちらりとナディアを見ると、目が合ってしまった。
「なんで精霊って、こんなに悠長なのかしら」
「ボクどっちかって言ったら精霊側だからね? それ、ボクも当てはまるんじゃないの?」
「……あぁ、お前達、似てるもんな」
「「ゼフィールの事だよ!!」」
やはり、空返事だった。話を全く聞いていないゼフィールの態度に、ナディアの怒りは更に膨れ上がる。張り詰めた空気に、小精霊達も思わず逃げ出す。
「大体、本を読みながら会話するなんて、信じられないわ。失礼よ!」
「別に俺とお前達の仲だろう。今更何を」
「んんん……! エリュー! 貴方もなんとか言っておやりなさい!」
「ゼフィは昔っからこんなんだからな〜。のんびりやさんなんだよね」
「物は言いようね」
ナディアとエリューは、ゼフィールに視線を戻す。他人事のように、本を読み進めている。頁を捲る音が、部屋に響いた。
怒りが頂点に達したナディアは、ゼフィールから本を取り上げる。
「あっ、おい。今良い所だったのに」
「どんな所よ」
「精霊と人間の契約について」
ナディアの心臓が跳ねた。それは誰と誰の話だろう、と。思わず息が止まりそうになる。惚けたナディアの隙を見て、ゼフィールが本を取り返した。そして読書再開。
「前例があまりないんだ。だから端から読み漁ってる」
「それって私でも手伝えたりするの?」
頁を捲る手が止まる。
ゼフィールはナディアへ向き直った。
「お前、すぐ死ぬだろう。無理だな」
「なっ……! 精霊から見たらそりゃあ、短い命かもしれないけれど!」
「なら、俺と契約してエリューのように長命にでもなるか?」
「え……?」
また跳ねたナディアの心臓は、どくどく騒がしく周りに聞こえそうだった。長命になれば、父や母、アリスティドの死を見届けなければならない。
ただしゼフィール――いや、精霊達とはずっと一緒に居る事ができる。複雑な思いが、ナディアの頭の中でぐるぐると回る。
「契約の条件も判るしな」
「あぁ……そういう事ね……」
あからさまに落胆したナディアを横目に、ゼフィールは最初の質問の返事をした。
「そう言えば、次期精霊女王の事だがな。本当に会いたいのなら、ナディアのように勝手に来るだろう。放っておけ」
「な! それだと私が貴方に会いたいみたいじゃない! やめてよ!」
「違うのか?」
「ちがっ……違いますぅー!! ばーかばーか!」
子どものような捨て台詞を吐いて、ナディアは屋敷を出て行ってしまった。その後ろ姿を本の間から覗いたゼフィール。くく、と少し笑って読書に戻る。
エリューは目を閉じて、思う。
とんだ茶番を見せつけられたな、と。
「ゼフィさぁ。結構ナディアくんの事、好きでしょ」
「さぁな。少なくとも、お前よりは面白く聡い人間だよ。あいつは」
「ムキーーッ! ボクだって研究者の端くれ! 面白さは勿論、賢さもがぷっ」
「気が散る。黙っとけ」
魔法でエリューの口を黙らせる。これだから人間は面白い。そんなゼフィールの思いが、読んでいる本の頁を加速させるのだった。




