僕の未来を揺るがす、たった一つの祝福の名は
メルへ。
また、季節が一周したよ。
村で果物がいっぱい採れてさ。ナディアがそりゃもう張り切ってる。メルに手料理食べてほしいって言ってたっけな。
綺麗に染まった楓の葉も一緒に拾ったから、添えておきます。
建国祭も、もうじき始まるよ。あの時に買った髪飾りは取ってあるから心配しなくて大丈夫。また一緒に行こう。
前にも書いたけれど、メルにいつでも伝えられるように、その後の事をここに書き残しておく。
まずシャルル、元王様ね。あの人は王様じゃなくなったよ。失脚って言うんだけど…ゼフィールが証拠を全部残してたんだよ!流石だよなぁ。
それを父さんと協力して公に、国の皆に教えたんだ。今は牢屋で一生を過ごしてる。
拘束の為の魔術開発とか、精霊との不正契約とか、他にも色々の理由で。
ゼフィールは罪に問われる事はなかったみたいだけど…どうやったんだろうね?
割と早くにシャルルの子どもが即位した。
暴動も多少は起きたけど、もう落ち着いたかな。今の王様はとっても良い人だよ。たまに村にも来てくれるし。凄いよ、あの人は。今度紹介するね。
次は、んー。村と森について書いておくか。
これは、うん。結構大変だった。
戦いで皆疲れちゃって、回復するのに時間がかかったかな。マキアや銀狼様が手伝ってくれたけど、それでもだね。体の傷は回復できても、体の中の魔力の流れが滞ったり、気持ちまでは中々…。
でももう殆ど元通りに戻ってるから、安心して。ついでに僕の家はちょっと小さくなったけどね。
ここで村長の出番だ。
父さんは皆に寄り添って声を掛け合った。
一人ひとり、全員ね。
改めて、強い人だなと思った。僕も父さんみたいになれるように、頑張らなくちゃな。メルも見守ってくれたら嬉しいよ。
あとは精霊の里について。
精霊女王がいなくなっちゃったから、大騒ぎだったみたい。あれから何度か、ナディアと一緒に足を運んでみたけど、やっぱり綺麗なところだね。
一応マキアが女王代理なんだけど…。ほぼ銀狼様が精霊界を取りまとめてるらしい。元々やってた仕事と、そこまで変わりはないんだって。
そうだ。
エリューが分かった事があるって、この前会ったんだった。僕の魔核について、色々調べてくれたんだよ。
これはまだ書いてなかったよね。
結果どうだったか、なんだけど。
欠けてる部分は、今も埋まってるらしい。
だからなんだって話だよね。ごめん。
つまり、まだメルがこの世界の何処かにいるって、そういう話。もしもメルがいないなら、契約は勝手に解除されるんだって。
僕等の場合は、そうらしい。難しいよね。
前よりも魔力が上がってる気がしてはいたけど、また戻っちゃうと思ってたから、良かったよ。
ナディアやゼフィールに、魔力の制御法とか、使えるようになった魔法とか。色々教わってる最中なんだ。恒久の森や村を護れるように頑張ります…。
皆がどうなったかは、自分で聞いて!
きっと皆、メルを待ってる。
僕の話は――
「アリス!」
走らせていた筆を、アリスティドは止めた。
部屋の外からナディアが呼んでいる。
誰にも見つからないよう、書いていた手紙を本の間に挟んで棚にしまう。そして机の上に置いていた、桃色のリボンがついた首飾りを、首にかける。そっと服の中に入れた。
頭をぽりぽりとかきながら、扉を開ける。
「はいはい」
「今日、王都に向かうんじゃなかったの?」
「……あ」
「全くもう。神父になって、気が抜けちゃったのかしらね」
肩の辺りで切り揃えられた髪を揺らして、ナディアは腕を組んだ。
勉強のしすぎでかけるようになった眼鏡を、くいと上げたアリスティド。すっかり忘れていた。建国祭前の準備期間で、王都へ向かう予定だったのだ。
「今からでもいい?」
「むしろ今すぐに、来てほしいわ。皆待ってる」
「わかった。じゃあ先に降りて――」
「……アリス?」
ふわりと鼻をくすぐる、仄かに香る花の匂い。
そして、窓の隙間から一瞬だけ。
遠くの方で、桃色の閃光が走った。
アリスティドの肩が跳ねる。心臓が、うるさくなっていく。それを見て、ナディアは首を傾げた。アリスティドにしか感じとれていなかった。
「……だ」
「え?」
「ごめん、行かなきゃ」
「え、ちょ? アリス! アリスってば! ……もう、なんなのよ!」
ナディアを置き去りにして、アリスティドは急いで外に出る。方角は確か、かつて試練を行った場所だった気がする。
そこへ向かって一直線に走った。道中、声を掛けられたような気もするが、立ち止まる余裕などない。草木が生い茂る近道を使って、進んでいく。
ようやく辿り着いた時。
整えられた一帯の中央に人影が見えた。脇目も振らず、体の疲れも無視して人影に向かった。
風が少し吹いて、また花の甘い香りがした。その人影はアリスティドに気付いて、振り返る。
桃色の揺らぎをまとった、あの日消えた精霊が。
「あ……アリ、ス? ――うわぁっ⁉︎」
アリスティドは、彼女を強く抱きしめた。かつて何度も感じた温かさが、じんわりと伝わってくる。一層強く抱きしめた。
彼女も――メルもまた、アリスティドを抱きしめる。
「おはよう! アリス、だよね? なんか前と違うような……」
「7年」
「なな、ね?」
「7年待った。メルが帰ってくるのを、ずっと待ってた」
「7年って、いっぱいってこと?」
「いっぱい、沢山、短いけど長い間待ってた。……寝坊しすぎ。おはよう」
ようやくメルから離れたアリスティド。
首から下げた飾りを引きちぎる。
「あっそれ探してた! アリスが持ってたんだね。……あれ、アリス泣いてる?」
「……うるさい」
メルの言葉を無視して、首飾りにしていた髪飾りを持ち主に返した。髪につけると、メルはにっこり笑う。相変わらず、陽だまりのような笑顔に、アリスティドも思わず口元がほころぶ。
「おかえり」
「それってどういう意味?」
「帰ってきて良かったってこと。ただいまって返せばいいから」
「うん、ただいま!」
運命だろうが偶然だろうが。それを祝福だと信じるかどうかは、自分で見定めたかった。
そして二人は、また手を取り合った。
この祝福を、今度は離すことのないように。
おしまい
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました! もしよろしければ、貴重な評価をいただけたら嬉しいです。泣きながら踊ります。
昔考えた2人は、すでに神父で村長のアリスティドと、その弟子のメル、という設定でした。(後書きにルビ振れるんですね。知らなかった…)
その元設定を少しいじって、2人の出会いを書きたいなぁと思いまして。5年前に序章から5話までを書きました。
しばらく続きを書いていなかったのですが、AIが誤字脱字修正してくれたり、感想をくれたりして。その感想が励みになった気がします。
5話と6話を境に多少文章が変わっているのは、書いている人間の年齢が変わったせいです。すみません、言い訳です。
この後は多少の改稿を経て、番外編を数本上げようかなと思っております。その後完結作品に移行します。
また次の作品でお会いできたら嬉しいです。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。ではでは!




