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僕の未来を揺るがす、たった一つの祝福の名は  作者: 折亜子
第五章 2人が二人で、いるために
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32.自分なりの守り方

「はっ! 次期村長だと?」


 シャルルは肩を揺らして笑った。小さな村などどうでもいい、と言うように。村の皆が脳裏に浮かんで、アリスティドは歯を食いしばる。


「そんなもの、なんにもならぬわ」

「馬鹿にすんなよ。父さんの仕事だぞ」

「父さん……あぁ、ニコラスの事か」


 おぼろげな表情で、シャルルは宙を眺めている。どこまでも苛つくその顔を、早く殴りたい。


「で? 次期村長様は、国王のこの私にどうするって?」

「殴るって言っただろ!」

「アリス、やっちゃえ!」


 二人は繋いだ手を離した。

 そしてアリスティドは大地を踏みしめる。想像していたよりも加速した自分の身体。高揚を覚えながら、右手に力を込めた。そして、シャルルへと振り下ろす。


「っ⁉︎」


 バキリ、と鈍い音が手を刺激する。

 アリスティドが確かに殴ったはずの、手の先から聞こえた。シャルルは左手を眼前に向けており、間には魔法の障壁。


 障壁にヒビは入っている。だがシャルルまで届かなかった。腹の奥がざわついて、アリスティドは素早く後退する。そして手に滲んだ血を雑に払った。


「暴力は駄目だよ。痛いからね。次は私の番だ」


 シャルルから溢れた魔力の流れが、8本の輝く槍を作り出す。そのまま左腕を無言で払った。


「便利だろう、精霊女王の力は。詠唱などいらぬのだ! さて、避けられるかな?」

「くっ……!」


 シャルルは桃色の光をまとった槍を、アリスティドへと放つ。腕を交差させたアリスティドだったが、次の手は間に合いそうにない。地が割れそうな爆音と、土煙がアリスティドの周りをおおった。


「アリスッ!」


 メルは涙目で、その土煙の中へ入っていく。シャルルは障壁を消して、それを眺めている。頭を抱えて、溜息をついた。


「つまらんな。こんなものか――ぬ?」


 徐々にあらわになったアリスティドの姿に、シャルルは片眉を釣り上げる。

 アリスティドの周りには、桃色の障壁。

 そして、同じ色の花弁が辺りに散っていた。

 アリスティドは周りに落ちた魔法の槍から、メルへと視線を移す。


「これ、メルが……?」

「ち、ちがう! メルじゃな――」

(わたくし)よ、アリス、ティド」


 どきり、と心臓が大きく跳ねた。


 シャルルの背後へ顔を向ける。その声の主は噛み締めた唇から、血を流しながら続けた。


「この……女王(マザー)たる、(わたくし)を……支配した、つもり?」

「……なんだと?」

「シャルル、だっけ……? 貴方こそ、ダメじゃない……。(わたくし)の魔力、使わ、ないで頂戴」

「黙れ」

「うぁっ!」


 目覚めた精霊女王を縛る、雷の荊。バチバチと放つ音が、一層強くなる。同時に、アリスティドを護っていた桃色の障壁が消滅した。


「アリスティド君が開けてくれた扉から、君を外へ解放してやったんじゃないか。むしろ感謝してもらいたいね」

「やめろぉおおッ!」


 アリスティドは再びシャルルへ突っ込んでいく。展開されるであろう魔法障壁を壊すため、身体に魔力を纏わせる。そして杖を構えた。


(僕も守るよ、プリムス!)


 ぶん殴って、このふざけた戦いを終わらせたい。だが、その願いも虚しくアリスティドが次の魔法を放つその前に。

 展開された魔法障壁に、激突した。

 後ろに飛ばされながら、体勢を立て直す。ぶつかった額からは、血が滴っていた。


「はははっ! 私はこの力で、強大な国を創るのだぞ? 君なんぞが敵うわけないだろう!」

「……くそ」


 額の血と汗を拭いながら、アリスティドは呟く。この男の言う通りかもしれない。震える膝を手で支えて、目一杯に草を踏みしめた。

 後ろで見ていたメルが駆け寄り、アリスティドの服にしがみつく。


「アリス、血が……!」

「大丈夫だよこのくらい。でも、今の僕じゃ勝てない……かも」


 大粒の涙をこぼすメルの頭に手を置いた。その時ふと、ある事が頭をよぎる。それはエリューが言っていた、魔核の話。


 欠損しているアリスティドの魔核を、メルが少しずつ補っている。もしそれが完全になったとしたら? シャルルを倒せる可能性は上がるかもしれない。


(……でも、まだ不完全だ)


 息を整えながら、シャルルを見た。アリスティドのことなど眼中にない男は、精霊女王を眺めて恍惚としている。

 苦痛に耐える彼女を見ながら、楽しそうに鼻歌を歌って。アリスティドは舌打ちをして、地面に拳を叩きつける。


 父やナディア、ゼフィール達を呼べば、あんな男など倒せるのだろう。でも皆は今、森や村を守ってくれている。


 アリスティドも、皆を守りたかった。

 非力な自分自身を、変えたかった。


「――メル」

「なに、どっか痛い? だいじょうぶ?」


 メルの肩を優しく引き寄せる。


「……アリス?」

「……僕はこんな掟、嫌だったんだよ。なんで自分の未来を、勝手に決められなきゃならないんだって」


 肩に触れる手に、力がこもる。シャルルを捉えながら、誰にも言ったことのない思いを、メルへ。


「下らないことだとか、やりたいことがあるだとか、色々思ってたけれど。結局決めるのを先延ばしにしただけ、だったんだ」

「うん……」

「皆と出会えて、王都や精霊の里に行って。精霊女王とも会えるなんて、思ってもみなかった。メルに出逢って、全部がひっくり返っちゃった」


 それは、アリスティドが決めた護り方だった。


「僕はこの先、恒久の森と村を護っていくよ。守りたいんだ。……メルのこともね。だからその時には……メルも隣に、――うわっ」


 最後まで言い切る前に、メルがアリスティドに抱きついた。勢いのあまりに、持っていた杖を落としてしまう。

 アリスティドは場違いすぎる自分達が、徐々に恥ずかしくなってきた。今は続きを諦めて、更に先の言葉を紡いだ。


「――力を、貸してくれる? メル」

「うん……っ! ずっと、一緒にいるから」


 二人の間から淡い光が滲んだ。

 徐々に大きくなって、広がった。優しくて強くて、けれどもとても温かいものに包まれる。アリスティドは思わず目を瞑ってしまう。


 メルの流した涙が、大地を濡らした時だった。

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