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僕の未来を揺るがす、たった一つの祝福の名は  作者: 折亜子
第五章 2人が二人で、いるために
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30.言葉の距離

 皆と別れた後、メルに手を引かれながら先へ進んだ。焦げついた匂いや、遠くから聞こえる地響き。折れた木々をかき分けながら。

 シャルルが今どこにいるのかなんて、わからない。それでもこの恒久の森の中を、ただ2人で歩いた。まるで逢引きを楽しむ恋人のように。


(この胸の高鳴りは、何なんだ)


 アリスティドは疑問を浮かべる。

 世界は分からない事だらけだ。


 変なしきたりのある家に生まれて。15歳の誕生日に出会った女性と結婚されられそうになって。実際に出会ってしまって。王都や精霊の里にも行って、色んな人と出会って。

 そして今。

 メルと2人で手を取り合って、進んでいく。


「メル」

「どうしたの、アリス」


 ふいにアリスティドが呼びかけると、メルが立ち止まった。辺りを見渡し、近くにあった切り株に腰掛けて、隣にと指差す。だが、メルはアリスティドの膝の上に座ってしまった。一瞬、アリスティドは身体を強張らせた。


「メル! 隣に座ってよ」

「どうして? いつもここに……」

「いつもって、それメルが小さかったからだろ……」


 メルはそこから退かない。アリスティドは渋々諦めて、息を吐いた。そのまま話を続けていく。


「メルってさ、やっぱりその……精霊、なんだよな?」

「うん、そうだと思う。それがどうかしたの?」

「いや……最初に出会った頃より、だいぶ大きくなったからさ」

「……あはは! ふつーはちがうのかな? わかんない。……でも、ぜんぶ覚えてるよ。アリスと会ったときから、全部」

「全部……」


 初めて出会った時の記憶が呼び起こされる。

 たった数日前の出来事なのに、もう何年も前の様な気がした。森が焼けた灰色のにおいと、月の明かりが照らした赤い炎。それを消し止めた、メル。

 あの時幼いだけのメルは、随分大人びた。


「全部、ってどこまで?」

「えー? ぜんぶだよー。最初から今まで」

「……あの時は、こんな会話できるなんて思わなかったな」

「メルも! いっしょだね」


 いつもの太陽みたいに眩しい笑顔が、アリスティドに向けられる。掟通りに出会った彼女を、本当に娶らなければならないのか。疑念のような違和感は、まだ心の中で引っかかったままだ。


 メルは再び前を向いて、浮いた足を揺らしている。これから戦火の渦中に向かうというのに、随分と楽しそうだった。

 それに比べアリスティドは誕生日を迎えたあの日から、怒涛の毎日が押し寄せて、身体は鉛の様に重い。


(……なんだか、疲れたな)


 そう思って、メルの頭に体重を少し預ける。


「……あのさ。メルに名前をあげた時のことも、覚えてんの」

「あったりまえじゃん! 一番うれしかった」

「そっか」


 初めて名前を呼んだ時、アリスティドも喜んでもらえて嬉しかった。同じ気持ちであったと知り、目を閉じる。

 あの時言えなかった事が、今なら言える。

 そう、思った。

 

「……意味」

「へ?」

「言ってなかっただろ。海って意味でさ。燃えてた森を消してくれた魔法が、海みたいで、その……綺麗、だった」

「ふーん? うみってなに?」

「ふっ……そうだよな、知らないか」


 よく分かっていないメルの反応に、アリスティドはつい笑ってしまう。勝手な運命で出会ったかもしれない。けれど、恒久の森も、村も、そしてアリスティドも。確かにメルに、救われた。


「今度見に行こうか」

「やったぁ! うみって美味しいのかなぁ」

「いや、食べ物じゃないよ」


 無邪気な彼女がここにいるだけで、不思議と力が湧いてくるような、そんな気がする。その力でメルを立たせて、アリスティドも立ち上がる。


 そして、またメルの手を握った。

 温かいなにかは、いつものように手を伝ってアリスティドを包み込む。


(エリューが言ってた核がどーのってやつは、これのことなんだろうな)


 その温かさの正体。

 きっとメルの魔力であり、アリスティドの欠けた魔力の核を補っている。でもアリスティドにとって、今はそんなことはどうでも良かった。皆が背中を守ってくれて、その先をメルと共に進んでいく。


 二人ならなんでもできると、確かめながら。


「よし、行くぞメル!」

「行こーアリス!」


 互いに笑い合って、前を向いて。

 二人は駆け出した。

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