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僕の未来を揺るがす、たった一つの祝福の名は  作者: 折亜子
第五章 2人が二人で、いるために
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29.残された者の行方

 教会を出てからアリスティドは、改めて村を見渡した。

 村の皆がいない。

 民家は所々が崩れている。

 遠くから爆発音のような鈍い音。

 畑は踏み荒らされ、野菜はぼろぼろ。

 黒煙は村から恒久の森まで、続いている。


 全てを把握するには、そこまで時間は必要なかった。ふと視界に入ったナディアは酷く、震えている。アリスティドはその肩に、そっと手を置いた。


「大丈夫だナディア。皆無事だよ、きっと」

「お父様……お母様……皆っ!」


 ナディアは祈りを捧げるように、両手を交差させた。アリスティドも自分が崩れないように、心の中で自分の言葉を反復させる。


 壊れた家や畑は、皆で直せばいい。

 村の皆が無事でいてくれるなら、それで。


 ふいに腕を引かれて、反射でメルを見た。アリスティドは目を見開いてしまった。先程までよりも幾分か、また成長していたからだ。


「メル⁉︎」

「ん?」

「なんで、どうやってまた⁉︎」

「? アリスといると、ここがあったかいね」


 そう言ってメルは、自分の胸に手を当てた。淡い光がメルを包む。窮屈そうなナディアのお下がりが、ゆったりとしたワンピースへ変貌する。


「ちょっと服がちいさかったの」

「……そう、だね」


 メルが精霊だという事実を、直に再確認してしまう。出会った頃から変わらず、魔法を自在に使えるようだった。


「こっちだよ!」


 そうして精霊女王のような幼い微笑みは、アリスティドの手を引いた。天を仰いで、息を吐く。

 そして静かに、足を踏み出した。



 ――恒久の森の中を、進んでいく。

 いつも通り真っ暗な森だが、所々で炎が燻っていて、点々と明るい。燃え広がらないように消しながら、着実に歩を進める。


 ふいに横から草を掻き分ける音がした。

 近付いて来た2つの影。一同は身構える。

 一つの影は、魔法使いのようだ。王国軍のローブが闇から揺れて、ゼフィールが瞬時に動きだす。それを見たアリスティドも、杖を構えて魔力を集中させた。

 その時――もう一つの影が、声を上げた。


「我等に害なす輩共に裁きを! 拘束せい(ウィンクラ・テネ)!」


 影の中から現れた2本の鎖。王国軍の魔法使いはあっという間に身動きが取れなくなる。その隙に呪文を放った声の主が杖を奪う。

 ありったけの力を込めて、太腿で真っ二つにした。


「このデズモンドの目が黒いうちは、地の底まで成敗しに参りますよ」

「デズモンド!」

「やや! これはアリス様に、ナディアも! 良くぞご無事で……!」


 父の補佐を務め、アリスティドの家を管理しているデズモンドだった。

 デズモンドは目頭を熱くさせ、手で押さえつける。ナディアもまた、瞳を潤ませた。指で雫をすくいながら、デズモンドへ話しかける。


「村のみんなはどこにいるの? お父様達は?」

「うむ……今、二手に分かれて行動しているよ。1つは子どもたちやレディ方が安全な場所へ。もう1つは――こうして戦っている」


 白い手袋が良く似合うデズモンドの拳が、強く握られる。アリスティドもそれを聞いて、歯を食い縛った。一国の王がやる事にしては、あまりにも酷すぎる。


「私も一緒に戦うわ!」

「いや、ナディアはレディ達を守ってほしい。アリス様はこちらへ加勢を――ん?」


 デズモンドがこちらに、いや、メルをふと見た。2人が握り合う手を少し見て、アリスティドに視線を戻す。


「その子はまさかあの時の……⁉︎ 決められたのですか、アリス様」

「……もうちょっと時間が必要かも。僕は陛下――シャルルに会ってくる」

「それはいけません! 危険です!」

「なんとかなるよ、多分、大丈夫だ。危なかったら皆を呼ぶから」


 アリスティドは大精霊達に振り返って、にっと笑った。


「あたしはテキトーにぶらぶらしとくよ。ね、銀狼」

『我は精霊女王(マザーリムナ)が無事ならそれで良い……』


 マキアがにゃははと笑って、銀狼は俯く。


「ボク魔法は使えないけど、これでも強いよ! ゼフィの共鳴(リンク)で身体強化! パンチキック!」


 エリューが腕を振り回したところへ、ゼフィールの手刀が頭上に落とされた。


「お前は大人しくナディア達と隠れてた方がいいだろ。うるさいし。子どもの面倒でも見とけ」

「がびーん! ボクも戦いたいよ〜!」


 ゼフィールの口角は、ほんの少しだけ上がった。アリスティドに向けて、言葉を放つ。


「アリスティド。いざとなれば、加勢してやる。……あぁそうだ」


 ゼフィールは左胸につけた金色のバッジを引きちぎって、アリスティドへ投げた。落としそうになりながらも、なんとか受け取って、ゼフィールを見る。


「……いいの? これ」

「いらん。返しておいてくれ。あいつとの契約は破棄したからな。精霊達の情勢を流していたが、もう必要ないだろう」

「えっゼフィ、そんな事してたの?」

「俺がやりたいようにやってただけだ」


 そう言ってどこかの空を、ゼフィールは見上げた。受け取ったバッジが、仲間であるのを示してくれたような気がして、胸が熱くなる。アリスティドはそれを見つめて、握りしめた。


「アリス、絶対無茶しない事。いいわね?」

「うん、ナディア。ありがとう」

「では急ぎますよ皆様! こちらへ!」


 デズモンドの言葉を引き金に、皆が散った。


 そしてその場に、アリスティドとメル。

 二人だけが残った。

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