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僕の未来を揺るがす、たった一つの祝福の名は  作者: 折亜子
第四章 マザーリムナの居る地
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27.わたくしのはなし

 ―― (わたくし)はその頃、人間(ミオ)の世界にいました。この森がまだ、森じゃなかった頃のね。

 そんなに大きくなかった。

 森も、私も。


 もう名前は忘れちゃったけれど、森のすぐ側に人間(ミオ)の村があってね。それがクラッソ村、だったのかな?

 とにかくその村の側に、私は存在()ましたよ。

 私が個の大精霊(リムナ)として。力の使い方なんてわからなかったけれど、確かに物心はつき始めたの。でなければ話せないわよね、こんな話。ふふふ。


 精霊(リムナ)達は私を見るなり、皆逃げたわ。

 今でもなんでかは、わからない。

 でも。

 彼だけが、唯一。

 私と向き合ってくれました。


「おーい君! ちょっと!」


 声がして振り返ったら、目が合った。

 とても澄んだ、綺麗な瞳。

 辺りを見渡したけれど、そこに居たのは、私と彼だけ。とっても驚いた。だって、話しかけられたのは、初めてだったんだもん。


「……あたくしに、ゆってますの?」

「へ? 君以外いないだろう」


 そう言って笑った彼は、とても眩しかった。


 森の中に入ってはいけない、と教えてくれてね。私の手をとって、連れ出してくれました。その手の温もりは今でもこの手に、ありますよ。

 ただ見ているだけだった世界は、すこしずつ、少しずつ変わっていった。


 まず、私が見える人があまりいなかったの! 多分皆、魔力が弱かったのね。村の中で彼と数人だけよ、私が見えたのは。

 そして、お話ができたのは、彼だけ。

 あの人はその時……15歳だったかな。

 村の中で一番、成熟しているように見えた。


 勿論、彼以外の人が話している事は、私は全てわかりましたよ。意味も大体。それ以前に、心の中は透けて見えたから、言葉の中身なんてどうでも良かったけれど。

 だから、彼らに言ってやったわ。

 あることからないことまで。

 憤りをぶつけてきた仕返しよ。


 そしたらね、怒られちゃった。


「生きているのは、君だけじゃない」


 怖かったなぁ。

 でも、今なら理解できる気がする。

 胸の奥がつっかえる、ってこういうことよね? きっと。とにかく初めてだらけのことが、彼を通して私を駆り立てた気がする。


 自分以外の人が何を言おうとも、私を村に置いてくれた。村の人間(ミオ)たちに紹介してくれたり。 精霊(リムナ)は食事なんてしなくても大丈夫なのに、一緒に食事をしてくれたり。同じ毛布に包まって、朝になるまでたくさん話したり。


 そういえば、彼は絵を描くのが好きだった気がする。私の絵を描いてくれました。動くなって言われたのに、動いちゃってね。おかしくて2人で笑い合った。

 いつしか私はそんな彼を――ううん。

 なんでもない。


 そんな日常が、続いた。

 はずでした。


「紹介するよ    。俺の妻……に、なる人だ」

「ご機嫌よう……」


 突然よ、本当に急だったわ。

 その時私がどう思ったかは……思い出したくない。

 でも、2人とも見つめ合ってきらきらしてた。


 程なくして彼らは一緒に暮らしだして……いつだったかしら。男の子が産まれた。壊れちゃいそうで、儚くて、彼にそっくりな可愛い子。私の人差し指をきゅっと弱く握りました。なんだか怖くて、すぐにそれを離した。そうしたら、泣いちゃったの。


 でもね。

 泣きたいのはこっちの方よ。私はどんな顔で、どんな気持ちで貴方たちを眺めたらいいの?

 わからないよ、   。

 私の世界には貴方一人しか、いないのに。


「ねぇ。あなたもどうせ   みたいに、どこかへ行っちゃうんでしょ」

 

 小さな命に問いかけてみました。

 返ってくるのは泣き声だけ。泣き声に気付いた女の足音が、遠くから聞こえた。だからその前に、かけてやったの。



末代まで、(イン・アエ)貴方達に平和を(テルヌム・パー)授けます(ケム・ドー)



 私の魔力は強いですよ。だって今、精霊女王(マザーリムナ)だもの。昔だろうと、それは容易い魔法をかけてやった。

 その子を包んだ光は、丁度女も見たと思うわ。駆け寄って、自分の子を抱きしめた。私はそれをただ眺めているだけ。

 見えないくせに、その女は私に微笑んだ。

 彼と同じように眩しかった。

 かもね。


 勿論、平和を授けるだけじゃダメよ。代償がなきゃ、その魔法は発動しない。でもね、それを言ったら私は消えてしまうから……アリスティドたちには絶対言えないの。ごめんね。


 でもそれが   との。

 ココ家と私の約束よ。

 私が消えるその日まで、永遠に。


 私なりの、祝福のカタチ。



「――    ! 俺の子になにをした⁉︎」

「なにもしてないわ」

「家内が教えてくれたんだよ」

「……そう」

「何の魔法をかけた」

「何……って。あなたたちと村の未来に、平和を祈っただけじゃない」

「それだけじゃないだろ、    」

「……その代わりにあたくしと、この森を護るように、したよ。   」

「あとは?」

「……   、あなたに隠しごとはできないのね。あなたたちはこの先、15歳に出会った女と結婚して、こどもは男の子しかうまれない」

「なっ……⁉︎  俺への当てつけか⁉︎」


 返事はしなかった。

 優しかった貴方はもういなくなってしまったのよ。貴方が教えてくれた怖さや辛さ、悲しさ、全部持って村から出たわ。

 これは、私だけの大切な記憶。

 私の存在意義。

 契約というより――約束なの。


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