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僕の未来を揺るがす、たった一つの祝福の名は  作者: 折亜子
第四章 マザーリムナの居る地
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26.真実の事象

「んー。どこから話そうかなぁ?」


 玉座から身を乗り出し、精霊女王はマキアへと問う。気付いたマキアは腕を広げた。


「どーぞごじゆーに」


 にゃはは、と口では笑うマキアだったが、その瞳は無を貫いていた。アリスティドは息を殺す。誰も見ていないと言った、恒久の森の真相を隅から隅まで聴く為に。


「えとですね。アリスティドがその子と出会った時に、その事象を書き換えさせたの」

「え……っ⁉︎」

「ん? どうかした、アリスティド」


 精霊女王はアリスティドを見下ろしている。

 殺したはずの息が、思わず声となって出てしまう。村の誰もが『恒久の森は燃えていない』と言っていた。そして、『大雨が降った』とも。その時は深く考えてはいなかったが、もしも。


(あれが、意図的だったなら)


 冷や汗は身体を濡らしていく。心臓の鼓動も先程からうるさい。それでも、おかげで村の皆が無事であった事に、安心してしまった。

 そんなアリスティドの心中なぞ知らずに、精霊女王は語っていく。足をぷらぷら揺らして、思い出すように。


「もしアリスティドがその子……メルを拒絶したその時は、出会いの前からやり直させなければならないところでした」


 出会いの前。

 つまり、試練の最中だ。

 アリスティドの脈打つ身体は、一際震え上がる。単に村の掟に従っただけだった。その先を、自分で変えると信じて。でも、勝手に変わってしまっただけだったのかもしれない。


 もしもやり直した時、何が残っただろうか。メルと――自分自身の記憶は。今まで辿ってきた足取りは。 

 恒久の森も村も、全て燃え切っていたかもしれないし、アリスティドはメルではない別の誰かと結婚していたかもしれない。でも、無力だと怒りを自身にぶつけたアリスティドが、確かに変えた。


 全部無くしてしまう、願いの無い可能性。

 頬を伝った汗が、足元に落ちた。


「危なかったね、アリスティド」


 にっこり微笑む精霊女王は本題に入らない。聴きたいのは、もっと根本の事象についてだ。アリスティドが口を開いた時、先にナディアが呟いた。


「あ、アリスが言っていた恒久の森が燃えたって……」

「あ、はい。本当にあったことですよ」


 随分とあっさりした答えだった。

 そんな、とナディアの震える声が聞こえる。


「この場は共鳴していますから。森がなくなれば、(わたくし)も消えてしまうのです! その時にその子を作りました」


 歯を見せて精霊女王は笑った。自分の事でないように、興奮気味に両手を握っている。

 そして、今まで頭から離れることのなかった恒久の森は、本当に燃えていた。血の気が徐々に失われていく。気を失わないように、メルの手を力強く握った。

 いつ壊れてもおかしくない、自分の手よりも小さな手。それはアリスティドの手を握り返した。

 メルは、ここに居る。

 アリスティドへ判らせるように。


『……精霊女王(マザーリムナ)が次代の女王を分霊した際、頃合い良く貴公の祈りに呼応したのだ』

「……呼応?」

『我とその……マキア、と同じように分霊し個として顕現させた、その子自身が呼応した』


 瞳を(つむ)った銀狼が補足していく。その言葉を聞いた途端、静かだったエリューは立ち上がってしまった。


「なるほど……っ! てことは、アリスくんとメルちゃんは出会うべくして祝福持ちにっ……⁉︎ これは凄いこふぐっ!」

「お前今は黙っとけ」


 興奮気味に話すエリューの口を、ゼフィールは両手を使い無理矢理塞いだ。そしてゼフィールもまた、鋭い眼光は保ったまま口を開く。


「その燃えた森は女王自ら、消せば良いのでは?」

「あ、そっか」


 思い付かなかったらしい。アリスティドの内から、歯の奥が軋む音が聞こえる。軽すぎる。自分も恒久の森も村も、何もかも消えたかもしれないのに。

 しかしそれを、銀狼が否定した。


『それは出来ぬ。外側からの干渉は出来るが、内側からは出来ぬ。……精霊女王(マザーリムナ)においては』

「そういえばそんな契約してたね」


 契約。


 これまでにも何度か出てきたその言葉は、精霊達にとってどんな意味を成すのだろう。話を黙って聴くことしか出来なかったアリスティドは、意を決して口を挟んだ。


「その、契約の内容……というのは?」

「アリスティド、それは言えません。契約の内容を話したら、結局(わたくし)は消えてしまうので」


 ころころ笑う精霊女王は、自身の話のはずなのに他人事のようだった。


「でも、どういう話の流れで(わたくし)と森が共鳴しているのかは、話せますよ」

「……話の、流れ、ですか」

「はい。恒久の森とクラッソ村の、最初の話」


 自身の故郷の名が出て、全身を鳥肌が駆け巡っていく。アリスティドは精霊女王から、目が離せない。彼女もまた、アリスティドを見つめている。


 そうして精霊女王は、御伽話のような昔話を始めた。

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