表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の未来を揺るがす、たった一つの祝福の名は  作者: 折亜子
第四章 マザーリムナの居る地
25/40

24.心の在処

 どれくらい進んだのかわからなかった。

 ただ一筋の光を元に歩き続けた。真っ白な世界。

 メルの足取りを追いながら、アリスティドは繋いだ手を離さない。メルがどこかへ行ってしまいそうだったから。


 光が一番強くなった時、その霧は晴れた。


 身体を包んで消えた霧と共に現れたのは、一面の桃色だけの花畑。地平の彼方まで続いており、終わりが見えなかった。

 後ろを振り返ると皆が居て、更にその後ろには巨大な扉。歩いた筈なのに。


 再び前を向くと、今度は真っ白な階段が現れた。まるでお城の大広間にあったものを、切り取ってきたように。


 見上げると中央には、女性らしさを纏った人型がそこに在る。夜空のような綺麗な瞳だけが見えているが、どんな表情をしているのかまでは見えなかった。


 桃色のくるんとした長い髪を携えて、それは奥ゆかしく立っていた。銀狼の二柱がアリスティドを挟む形で前に出た。そして、(ひざまず)く。

 それを見て確信する。


(……あぁ、この精霊が、精霊女王、なんだ)


 呆けてその光景を眺めていたら、頭を掴まれて無理やりしゃがまされた。恐らく、ゼフィールだろう。後ろを振り返る余裕などない。

 そうして一同が精霊女王の前に跪いてから、銀狼が声を上げた。


『お連れしました。女王』

「うんっ! ありがと!」


 拍子抜けしそうな程の活発な声。

 威厳を感じたのは気のせいだったか。顔を少し上げると、マキアがにゃははと笑い、アリスティドと目が合う。その後には何も言わず、すぐに前を向いてしまった。

 目線を地面に戻してしばらくすると、フッと頭上に影ができた。


「顔を上げて、アリスティド」

「……!」


 言われた通りに顔を上げて、アリスティドは愕然とする。遠くにいて見えなかったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()。メルが成長したら、きっとこうなるだろう。


「それから、おかえり。(わたくし)の可愛い子」


 そう言いながら精霊女王が、メルの頬を撫でる。

 メルは嬉しそうに目を閉じている。


「やはり、そうか」


 ゼフィールの呟きが聞こえて、精霊女王はにっこり微笑んだ。


「はい、そうですよ。(わたくし)精霊女王(マザーリムナ)です」


 ぞわり、と背中を虫が這ったような感覚がアリスティドを襲う。確かに探してきた、メルの家族。嫌でも分かる。


 精霊女王が――メルの母だ。


 その時、繋いでいた手をメルが離そうとして、思わずアリスティドは握りしめた。自分が知らない何処かへ行ってしまいそうな、そんな気がして。メルはアリスティドを振り返り、きょとんとしている。


「大丈夫だと思いますよ、アリスティド。この子はどこにも行かないと思う」


 曖昧な精霊女王の言葉。善意も悪意も全くない、潔白なる精霊。信じられそうで、信じられなかった。


 ふと精霊女王の瞳を見ると彼女もまた、アリスティドを見ていた。だが先程メルを見ていた、慈愛の眼差しなどではない。もっと別の――


「こいつに決めさせるのですか、精霊女王」


 考えがまとまる前に、ゼフィールが声を上げた。どこか引っかかりを感じるゼフィールの言葉。でも今は精霊女王の表情だけを捉えていたい。


「精霊女王なんて堅苦しいの、いやよ。精霊女王(マザーリムナ)って呼んでよね」


 両腕を腰に当て、ぷりぷりとしながら彼女は答えた。精霊女王の雰囲気に飲まれている、この空気感。アリスティドの肩の力が、徐々に抜けていく。


「女王。失礼ですが、そろそろ話を……」

「あっ! そうだよね、ごめんごめん」


 どうにも話が進まないところに、エリューが口を挟んだ。精霊女王は、桃色の髪を軽やかに揺らしながらそれに答える。幼さが滲み出る、お茶目な仕草を添えて。

 しかしその幼さは、アリスティドに向き合った瞬間に消え去った。先程同様の、研ぎ澄まされた瞳。


「アリスティド。あなたは……何をしに来たの?」

「……っ⁉︎」

「何を、知りたいの? どうしたいの?」


 抜けた筈の肩の力は、強烈に戻されていく。身体が氷漬けにでもされたかのような、そんな感覚が呼吸を止めそうになる。ひゅ、と喉が鳴り、次の言葉を紡ぐことが、できない。


「いいのよ、ここで終わらせても」


 市場で品定めをする、母親のように。

 無垢な言葉を投げつけてくる。


「あなたの心は今――何処にあるの?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ