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僕の未来を揺るがす、たった一つの祝福の名は  作者: 折亜子
第四章 マザーリムナの居る地
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23.恒久の森の扉

 ――精霊(リムナ)の力は便利である。アリスティドは、そう思わずにはいられなかった。

 人間には到達不可能な長寿の存在。

 数千の刻を得ずとも、その魔力は膨大かつ強大。気まぐれで祝福をもたらし、味方でもあるし敵でもあった。

 幸か不幸か。

 それを決めるのは――――神では無い。




「――ほい。着いたよ」


 マキアの転移魔法陣にて、彼らは辿り着く。

 この森は彼が生まれ育った村を囲む、広大な森。先祖代々、護り護られてきた神聖な森。そして、生まれてから死ぬまでずっと変わらずそこにいてくれる、家族である森。


 そんな、恒久の森に。


「……恒久の森、か」


 恒久の森には、精霊を束ねる女王の間に繋がる異界の扉がある。


 その聞いた事がない一文――王都の図書館で見た書物を思い出し、アリスティドは呟いた。

 メルの手を握る力が一層強まる。手汗が滲む。本当に、ここに繋がっているんだと確かめるように。

 横目でメルを見ると、ただ一点だけを見つめていた。その方向へ意識を向けた時、それは顕現した。


「おーい銀狼! あたしが来たよーマキアだよー。分かってるんでしょー早く出てきてよー」

『……吠えるな。我の格が下がる』


 ぱん、と弾けた()()()()


 眩しさに目を瞑り、また開いた時には目の前に現れていた。神々しさを纏った、銀色の狼。瞬間、アリスティドの心臓は、鼓動を速く速くと脈打ち始める。目を背くのも畏れ多いその存在に、瞬きも忘れた。


『又、会ったな。人の子よ』


 頭の中で声が反響する。それが他の皆にも届いているかは、わからない。だが確かに、アリスティドはその声を、聞いた。


『良くぞ、その子を護ってくれたな。礼を云おう』

「…………はい」


 なんとか絞り出した、微かな声で返事をする。横ではナディアが耐えきれず、力が抜けてエリューが支えているが、その光景はアリスティドには見る事ができないでいた。


「分かってるよね、あたし達がここに来た理由」

『勿論、分かっている。……お前は今、その様な態度でいるのだな』

「えー? あんたがあたしを分霊して、個の存在にしたんだよ? 元々はあんたの一部であった感情だよ」

『そうだったな』


 銀狼とマキアは談笑しながら、己同士で話を進めていく。


『……鍵が、揃ったのか』

「まだ未完成だけどね。坊や達なら開ける筈だよ」


 そうして銀狼の二柱は、アリスティドを見た。その鍵は一体どこにあるのか。そもそもその鍵は何に使うのか。それを予見したかのように、銀狼の二柱がアリスティドの目前――後ろを振り返り、腕を掲げた。


『今集いし鍵の在処、かの者の御許へ続く扉よ此処へ』


 じわりと空間が歪み、光の粒が煌めき、徐々に姿を形を作っていく。大きな大きな、重厚な扉。森にはとても似つかない、異質な扉が現れる。


「ぶっちゃけさー。あたしら精霊(リムナ)は、こんな扉なくても行けるんだけど、君達人間(ミオ)はそう簡単に入れない訳よ」

『これ! こんな扉など……烏滸(おこ)がましいぞ!』

「にゃは、ごめんごめん。兎に角、ちゃっちゃと開けて、入っちゃいなよ〜」


 軽々しくマキアは言うが、こんなに大きな扉をどう開けたらいいのだ。アリスティドが見上げると、木々の頭が触れる辺りに、これまた大きい鍵穴はある。マキアを見たと同時に、微笑みが口を開いた。


「あのね、この鍵穴は飾りみたいな物だから、気にしなくていいよ」


 その言葉を聞いた所で、身体が動かないアリスティドだったが、不意に腕をくんと引っ張られた。メルだけが前を向いたまま、その扉へ向かっていく。アリスティドは辿々(たどたど)しくも歩を進めて、2人は目前で止まった。


 扉に手を触れさせるメル。同じようにアリスティドもそうした。これで合っているのか困惑した時に、メルが話しかけてくる。


「アリス、祈って」

「……えっ?」


 呟きを残したまま、メルは瞳を閉じてしまう。困惑しながらもアリスティドも、瞳を閉じた。


(僕には何がなんだかさっぱりだ……でも精霊女王に会う事が出来るのなら……知りたい)


 ――メルを家族の元へ。


 それが祈りなのかは、未だにわからない。ただ一つ確かなのは、その扉が音も立てずに静かに開かれた事。温もりが肌をすり抜けて、吹き飛ばされそうなくらいに力強い風がなびいた。


 扉の先は、霧のような霞がかかっており、よく見えない。それでも確かに繋がったと分かるのは、メルが躊躇(ちゅうちょ)なくその中に入ろうとするからだった。


「わ、ちょっと、メル待ってっ……て!」


 握った手がアリスティドを扉の先へと導いた。

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