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僕の未来を揺るがす、たった一つの祝福の名は  作者: 折亜子
第三章 精霊の里フィン・ラグナリス
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20.銀狼の系譜

 翌朝。エリューの騒がしさは健在だった。


「んで、ボクは覚悟を決めたッ! ゼフィについていって、精霊(リムナ)の研究を永遠にするってね」


 精霊の里にも、昼夜の概念はあるらしい。場所が違うだけだ。普段通りの朝を迎えて、朝食を取り終えた。

 今はデザート代わりに、エリューの身の上話を聞いている。


「じゃあエリューは人間でも精霊でも無い存在なのね」

「んー、まぁそう! 半端者になっちゃう代わりに、研究に命を捧げたんだ。ま、ゼフィと契約した内容は、言ったらボクが消滅するから言えないけど……」

「内緒にするから、話してみなさいな」

「話聞いてた?」


 ナディアがエリューと話しているのを、アリスティドは眺める。普通の人間、に見える。それはゼフィールも同じだ。精霊だというのが、今だに信じられない。


「あと、ゼフィが今からこの部屋に入ってくるけど、それは契約の共鳴(リンク)があるから分かるんだよね。思考もたまに読み取れたりする」

「…人権がないのね。可哀想に」

「いや人間(ミオ)じゃないからね」


 そこへ会話を遮るように扉が開く。エリューの言う通りに、ゼフィールが入室。アリスティドはまじまじと見つめるが、やはり見れば見るほど、精霊には見えなかった。


 漆黒を纏った精霊は、相棒のボサ眼鏡の背後に仁王立ちする。表情から読み取れる雰囲気は、とてもじゃないが近寄りがたい。


「余計な事言うな」

「言ってないよ! 他の精霊(リムナ)と違ってゼフィの家だけは人間(ミオ)の家を参考にしてて、ゼフィが凄く気に入ってるなんて、言ってないよ!」

「言ってんじゃねぇか」


 エリューは良く叩かれる男だった。

 メルはそれを見て笑っている。


「これからについて、銀狼(ぎんろう)に話しておこうと思う。お前達もついてきてくれ」


 ゼフィールが全員に声をかけた。初めて聞く単語にアリスティドもナディアも首をかしげてしまう。ぎんろうというのは、一体なんなのか。

 ナディアが思い出して、声を上げた。


「……あ。昨日ゼフィールが話してた男の子が言ってたわよね。ぎんろうさま、って」

「あぁ。銀狼は、里長の……。代理というか。人の言葉だと、孫と言うのに近いかもしれん」


 どうやら偉い人のようだ。里長、と聞いて思わず身体がびくりとなる。


「とにかく、シャルルを敵に回したのは事実だ。今後を考えるには、銀狼に話すのが手っ取り早いだろう」


 相変わらず淡々と話す、いけすかない奴だった。平然と語られた王都での出来事を思い出して、アリスティドとナディアは心臓が跳ねた。知ってか知らずか、ゼフィールはメルを見つめている。

 視線を感じたメルは目を丸くさせた。



「エリュー」


 そう声をかけたのは、アリスティド。里長代理である銀狼の元へ向かう道中、ゼフィールよりも話しやすそうなエリューに声をかけたのだ。

 銀狼とはなんなのか、気になって仕方がなかった。それから、心の準備も必要だった。


「銀狼って、どういう人?」

「んー。簡単には言えないけど……強いて言うなら、テキトーな大精霊(リムナ)、だね」


 ぽりぽりと頭を掻くエリュー。反応を見るに、どうやら苦手らしい。


「エリューがそう言うなんて、よっぽどなんだな」

「どういう意味⁉︎」

「ほら、ここだ」


 ゼフィールが立ち止まり、他の面々も立ち止まる。案外遠くない距離、というか転移してきた場所に程よく近い場所だった。

 樹木が不自然に浮かぶ、あの泉。

 昨日出会った女を、アリスティドは思い出す。もしかして、と考えだした時、ゼフィールが声を上げた。


「おい、銀狼。入れろ」

『はいは〜い!』


 頭の中に響く、鈴のような声とともに、一行は転移した。――まばゆい銀色の光が辺りを包んで、飛ばされた。




「目、開けちゃっていーよー」


 ――言葉を頼りに目を開けると、先程まで見ていた泉とは別の場所に居た。頭上には生い茂る木々の頭の様な葉っぱの屋根と、そして自然と鼻をつく木の香。柔らかそうな布の椅子に腰掛ける、女が出迎えた。


「やっほーゼフィール。あ、エリューも居るね」

「どうもです、銀狼様」

「かしこまらなくて良いよエリュー。聡い子は嫌いじゃないけど、やり辛いよ。ゼフィールはもう少し愛想良くしな」

「善処する」


 気の抜けそうな大精霊達のやりとりだった。それでも漂ってくる魔力の圧に、人間は足が砕けそうになる。立っているのがやっとであったナディアに、気付いた女は凛と発する。


「あぁごめんね。君達は座りな、疲れちゃうよ」

「……申し訳ありません銀狼様。そう致しますわ」


 ナディアが冷や汗を拭いながら、跪く。アリスティドよりも魔力量が多い分、感じ取れる魔力量も多い。


「それから、昨日の坊や。また会ったね」

「……どうもです」


 アリスティドに気付いたその女は、銀色の髪を(つや)めかせながら声をかけてきた。長い脚が胡座(あぐら)をかく。


「きっと名乗った方がいいんだよね? あたしは銀狼の系譜、マキア。()()()()()()()()()()()()()()()()


 見定めるようにマキアが一同を見つめる。闇色の瞳に吸い込まれそうで、自然と鳥肌が立つ。言っている意味は分からないが、敵に回したくない相手なのは間違いない。

 それでも自己紹介をしようとしているのに、声は出ず口だけが空振りした。


「あっ大丈夫! あたしは何でも知ってるから、名乗らなくていいよ。アリスティドとナディア、それからメルだね。やっほ〜」


 にゃはは、と独特な笑い声を上げるマキア。


「決めたんだね? 坊や」


 マキアがにんまりと、笑いかけてくる。

 本当に全てを知っている様な口振り。

 確かに決めた覚悟を、頷きで現した。


「メルは……メルは、精霊、なんだろ。リムナだとしても……。それでも、メルに家族はいるはずだから。会わせます。必ず」

「にゃはは。宜しい。良いでしょう。その子を導いてあげな。鍵は坊やと、その子だよ」


 闇を見つめる大精霊(マキア)の瞳が、軽やかに煌めいた。

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