表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の未来を揺るがす、たった一つの祝福の名は  作者: 折亜子
第三章 精霊の里フィン・ラグナリス
19/40

18.祝福の片鱗

「因みに、()()っていうのはリムナ達の、人間に対する呼び方ね」


 エリューは横からの視線を気にせず、話を進めた。ここに来てとんでもない事実をぶち込まれ、話が上手く入って来ない。


精霊(リムナ)と、人間(ミオ)……か。ゼフィールが精霊だったなんて、気が付かなかった……」

「人並み以下の魔力しかないお前に、感知は無理だ。仮にナディア・ノイレンヴァインの魔力量だとしても、気付く事はないだろうがな」


 すましたようにゼフィールが淡々と述べていく。自身達より高位存在の彼に、今は言い返す言葉も浮かばない。

 アリスティドは自然に拳を固く握った。気が付かなかった。それだけの事なのに。非力な自分が、底無し沼に沈んでいく。

 

「んで、ここからが本題!」


 ぱん、と手を叩き、エリューは立ち上がる。そしてゆっくりと部屋の中を歩きだす。

 アリスティドはその音に反応し、止まっていた息を大きく吸う。心臓の鼓動が跳ね出して、つい姿勢を正してしまった。


「もうそろそろ起きても、良い頃合いだと思うんだけどなー。ゼフィこの子になんの魔法かけたの?」


 ゼフィールが魔法をかけただろう、と言わずもがな断言し、眠り続けるメルをじっくり眺めている。かけられた魔法の術式を見ている様に見て取れる。


ずっと寝とけアニマ・エーテル・ステイシス

「はあっ⁉︎」


 眼鏡が割れそうな勢いでエリューが飛び跳ねる。少しの憤りを混ぜながら、ゼフィールの首根を掴んで、激しく揺らした。周りが騒がしいのに、メルはすうすうと寝息を立てるだけだ。


「そんなのほぼ起きないじゃんか‼︎ 早く起こしてよ!」

「……はぁ。そいつが起こせばいいだろう」

「あ、そっか!」


 エリューは掴む手をパッと離し、続いてアリスティドの元へ。忙しなく動く彼は、まるで新しい玩具を貰った子どもの様だ。

 ソファに両肩を押さえつけられたアリスティド。楽しげな彼とは裏腹に、何故か気が咎められ体をこわばらせた。

 襟を正しながら、肘置きに腕を預けたゼフィール。品定めをするように、ただただ静観している。


「この子を起こして! じゃないと話が進まないんだよ」

「えっ、でも、どうやって……?」

「簡単な話だよ。いつもみたいに、やったらいいさ」


(いつも、って? 普段なら、)


 隣で眠る幼女の横顔は、最初に出会った頃よりも、幾分か、大人びていた。長い睫毛が、アリスティドの心臓をどきりと跳ねさせる。

 震える手で、そっと幼き彼女に、手を伸ばす。


「……メル、起きて良いよ」


 そう言葉をかけて、メルの肩を揺すった。肩に当てたアリスティドの手の平が、じんわりと温かくなり始める。心が安らいでいく。

 しかし、メルは起きないまま。


 このまま永遠に起きないような落胆した気持ちが、ナディアを自然に立ち上がらせた。


「起きないじゃな――」

「シッ! 静かに。見てて」


 思わず口にした不安は、遮られてしまう。自身の口元に、人差し指を立てたエリューは好奇心を抑えきれず、笑っていた。

 手の平を起点にし、桃色の光が強まっていく。アリスティドの瞳が焦点を霞ませて、ぽつりと口は勝手に動き出す。


 ――誰かに呼ばれている。

 そんな感覚だけを添えて。



――主よ。(アニマメル・)眠りから逃れ給え(エーテル・レヴォケア)



 2人を包んだ光が一等強まり、そしてすぐに消えてしまった。ナディアだけがただ呆然と、その光景を眺める。

 眠り続けるだけだった幼女。眉を歪ませながら、その瞳をゆっくりと開ける。


「ん……? あ、アリス! おはよー」

「――え? あ、ん? お、おはよう。メル」


 アリスティドは反応して、預けていた意識を引き戻す。出会った頃よりも、格段に話す様になったメルが、声をかけてくる。

 微笑みかけてくる彼女はまるで、神が現れたかの様に眩しかった。思わず、視線を外してしまう。

 そして周りへと視線を移した。ナディアが複雑そうな表情をし、ゼフィールは目を瞑り、エリューが瞳をキラキラと輝かせる。


 その周りに漂う複数の、淡い光。


「うわなにこれいっぱい居る⁉︎」


 アリスティドは、驚愕の声を上げる。先程まで室内に存在していなかった、淡い光達。歓迎するかの様に、周りに寄ってくる。

 何故自分に、そしてメルの周りに集まるのだろう。


「わー! かあいい!」

「アリス、貴方、小精霊が見えるようになったと言うの……?」

「わぁ! これが祝福かぁ。ね、ゼフィ!」

「……そうだな」


 各々が声を上げる。だが、その声は頭の中を抜けていく。自分は一体どうなってしまったのだろうか。

 状況を飲み込もうとして気が付く脚の震え。アリスティドは、内から湧いてくる小さな怯えを自覚した。自分が変わってしまう事への、小さな恐怖。

 その脚に置かれた、小さくて暖かい幼い手。


「アリス、らいじょーぶ?」


 その瞳は安心を憶える、小さくて確かな優しい瞳だ。けれど、今は森で迷子になったあの時のような、とても大きな存在に思えた。

 喉を鳴らして、息を呑んだ。


「やー。遂に姫が起きたね、アリスくん! 核はちゃんと機能してる。うんうん」


 空気を読まないのか、読まないフリをしているのか、男が話を区切った。満面の笑みを浮かべて、すこぶる機嫌が良い。


「良いものを見させてもらったよ。……じゃあ改めて、ボクとゼフィについて、少し話をしよう。まず初めに、ボクは精霊(リムナ)じゃない。でもって――」


 にへらと笑うエリューは、何処かぎこちない。


「元、人間(ミオ)なんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ