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僕の未来を揺るがす、たった一つの祝福の名は  作者: 折亜子
第三章 精霊の里フィン・ラグナリス
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17.精霊の里

 ひりひりと痛む額を抑えながら、屋敷へと入る。手の平に血は付いていないようだ。最後に入ったアリスティドを感知したかのように、玄関の扉は勝手に閉まった。


 主の帰りを待っていた屋敷の、全ての明かりが灯る。アリスティドの魔力量では到底敵わない、技術の洗練された自動魔法(オートマギ)だった。

 蝋燭に灯った火のゆらめきが、この不思議な空間を演出していて、やけに緊張してしまう。


 屋敷のすぐ右手にある応接室に通され、ふかふかのソファに腰掛ける。案内してくれたのは、ゼフィールでもエリューでもない。正確に言えば扉が勝手に開いた。アリスティドは目をまんまるにしながら、ナディアへ耳打ちする。


「なぁ、この自動魔法(オートマギ)すごいな」

「……え? ……あぁ。そういう事ね」


 アリスティドの言葉を聞いて、ナディアは手をかかげた。もてあそぶような仕草だが、何と戯れているのかは、分からなかった。


「アリス、この子達視えてないんでしょ」

「えっ?」

「精霊よ。小精霊。たくさん居るわ」


 小精霊は空中に漂っているようだ。だが、魔力が弱いアリスティドには視る事ができない。


「そいつらをこの家に住まわす代わりに、色々やってもらっている」


 ゼフィールが深く、くつろぎながら答えた。ゼフィールもナディアも、小精霊とやらが視えているらしい。表情はなるべく変えずに、心の奥底でアリスティドはひっそりと、自身の魔力量の少なさに嘆いた。


「さて、何処から話そうか」


 そう切り出すのはゼフィールの低い声。1人掛けのソファで脚を組みながら、肘置きに腕を預ける。


「そう、ですね……。この街について、知りたいです。ここに来るまでの……街の人の反応も気になるし」


 アリスティドが答える。

 見た事も聞いた事もない、不思議な街。見惚れる程に綺麗な景色だった。だが、すれ違った人々の驚き、戸惑い、(おそ)れ。様々な表情が、頭の中をちらつかせた。


「この地か。まず人は簡単には、立ち入る事は出来ない。出来ないし、許されない。名前はフィ――」

「お茶が入りましたよーー!!! お待たせ〜!」


 扉を蹴破る勢いで入室したエリューが、話の腰を折った。テキパキと全員の目の前に、紅茶入りのティーカップを配置。ゼフィールの後ろに素早く控える。


「お前は相変わらず間が悪い男だな」

「いってー! でも懐かしい!」


 ゼフィールは額に薄っすらと血管を浮かせながら、裏拳を一発、エリューの腹に入れた。自分と幼馴染の姿を2人に重ねて、アリスティドはぽつりと呟く。


「仲良いんですね」

「どこがだ」「仲良しです!」


 そんな3人の騒がしいやりとりを、ナディアは紅茶で喉を潤しながら流した。そして一言。


「本題に入ってくださる? ゼフィール卿」

「「「…………」」」


 ピシャリと放たれた言葉に、3人は一瞬で制止する。ナディアの口元は笑っているが、瞳は怒りを写していた。


「貴方、どこまでアリスの事を調べたの?」

「……」


 ナディアの問いにゼフィールは、ただ黙る。しん、と静まり返る応接室。エリューは居心地悪そうにうろうろと、そわそわとしながらゼフィールの顔色を伺い、物音を立てないようソファへと腰掛けた。

 アリスティドは、ナディアを見守る。


「精霊を奴隷のように扱って、さぞかし愉快だったでしょうね」

「――フィン・ラグナリス」

「……え?」


 目蓋は閉じたまま、ゼフィールが呟いた。長い前髪が顔を隠し、表情は上手く読み取れない。


「人の言葉では『精霊の里』と呼ぶ。俺達にとっては、フィン・ラグナリスだ」

「精霊の、里……」


 言葉を反復させたのはアリスティド。精霊の住まう地。ならば、ここに辿り着いてからの情景や、人々の反応全てに合点がいく。


「つまり僕達は、拒まれるべき存在、だと」


 きゅう、と腹がつっかえるような感覚を、手で強く抑えた。精霊の里に立ち入ってはならない存在。街の人々、いや精霊達の、拒絶ような反応が頭の中を巡っていく。

 しかし、先程エリューから言われた祝福という言葉。拒まれた事とは正反対の言葉に、再び額が痛んだ気がした。


「ゼフィはそこまで言ってないよ。アリスくん」


 顔を上げると、エリューと目が合う。眼鏡の底から覗く眼差しは、先程とは別人のように真剣だ。自身で淹れた紅茶に口をつけ、美味いと呟く。


「昔から言葉足らずだよねぇ、ゼフィは。それにアリスくんは、悲観的と言うか消極的と言うか……。もう少し自分に、自信を持っても良いと思うよー」

「すみません……」

「謝る事は何もないよ! ゼフィ、ボクから話続けちゃっても良い感じ?」


 エリューは問いかけるが、屋敷の主は無反応。手を組み、変わらず瞳は閉じている。


「了解! じゃあ話を進めるね。えっと――」

「今のは肯定なんですか⁉︎」


 どう見ても無視したので、思わずナディアが話を遮ってしまう。


「まぁまぁ聞いてよ。まず、君達はゼフィが連れて来た時点で、フィン・ラグナリスには受け入れられてる。その点は安心していいよ。もっとも、リムナが認めるかは、別の話だけどね」

「リムナ、って?」

「リムナは()()()()()()()()()()()()()だよ。精霊って言うのは、あくまでキミ達側の都合って奴さ」


 ん? と、アリスティドとナディアは、言葉に引っかかりを感じた。『ゼフィ達の種族としての呼称』それがリムナ。ここまでは分かる。

 だが、それだと、つまり。


「ゼフィールって、え、精霊、なんですか⁉︎」

「あれっ? ゼフィ言ってなかったの? 本当に言葉足らずだねぇキミは。ていうかキミ達も気付きなよ! どう考えてもミオから見たら、ゼフィは規格外でしょ!」


 腹の底から大笑いするエリューを、獲物を狙うような眼光でゼフィールは睨み返した。

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