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僕の未来を揺るがす、たった一つの祝福の名は  作者: 折亜子
第三章 精霊の里フィン・ラグナリス
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16.祝福の観測者

「目を開けろ、もう着いた」


 ゼフィールの声を皮切りに、アリスティド達はゆっくりと目を開けた。


「うわっ……なんだ、ここ」

「不思議な場所……」


 アリスティドとナディアは鳥肌が立ち、感嘆した。霧が空を覆い、どこからともなく滝の音が反響する。街の中心らしき場所には、周囲が正確に整えられた煌めく泉。


 更にその中央――物理を無視するように、木が一本浮いている。どこまで続いているかわからない向こうの景色は、絶えず虹色に光を反射して、この世の物とは思えない程に。


「――綺麗だ……」


 アリスティドは息を呑みながら、呟く。

 無言でそれを見つめるゼフィール。感慨に沁みる2人の間を割いて、再び歩き出した。


「あ、ちょっと待って!」

「ここに連れてくる奴は、総じてそう言うんだな」

「え? それってどういう……?」

「…………」


 ゼフィールはアリスティドの問いかけを無視して歩を進めて行く。初めて来たこの場所で、はぐれないように駆け足で追いかけた。


 広場を進んで行くと、徐々に家のような建物が見えてくる。その形は、真っ直ぐだったり、曲がっていたり、多様だ。出歩く者は少ないようだが、それなりの集落である様子が伺える。すれ違う人々をちらり見ると、驚きの表情や声を上げる者、睨んでくる者もいた。

 その中から大人の制止に聞く耳を持たずに 、1人の男の子が近付いてきた。


「ぜふぃーるさま、かえってきたの?」

「あぁ。少々厄介事に巻き込まれたがな」


 そう話しながらゼフィールは、男の子の髪をくちゃりと撫でる。今まで見てきたどの表情よりも、穏やかな顔だ。


「そんな顔するんだ」

「うるさい黙れ」


ゼフィールと男の子のやり取りに、心和むアリスティド。しかし視界に入ったものが、それを覆す。


「――――羽……?」


 男の子の背中にある、小さな羽のようなもの。

 半透明のそれは、感情に連動して小さく動く。


「はね? ……あ、おにーちゃんたちにはないんだね。あれ、ぜふぃーるさま? も? ぎんろーさまにとられた?」

「俺にはもう無いよ」


 再び氷の冷たさを帯びた、ゼフィールの表情が口角だけを上げ、その場を後にする。

 男の子の姿が見えなくなった頃、ゼフィールは丘の上に佇む屋敷の前で立ち止まった。


「ここが俺の家だ」

「……昔から言葉足らずだとは思っていたけれど……。その前に! ここは! どこなのよ!」


 景色に見惚れていたナディアだったが、ついに声を上げた。メルが起きそうな勢いだが、変わらず夢の中だ。


「あ? 俺の故郷だよ。人の言葉で言うなら、フィン――」

「あっれー? 誰かと思えば、ゼフィじゃないか〜。久しぶりだねぇ」


 屋敷の方向から現れた男が、話を遮った。櫛の通っていない乱れた色素の薄い髪に、分厚い丸眼鏡。白衣のような服を来て、不恰好に立っている。


「エリュー」


 後ろを振り返るゼフィールが、男の名前を呼ぶ。


「真面目に何十年ぶり? って感じだよね。もう帰ってこないと思ってた!」

「嘘付け」

「残念! ボク嘘付いたことないよ〜ん。……あれ? あれあれあれあれ?」


 ゼフィールと再会を果たした男、エリューは物珍しそうにアリスティドの目前に、駆け寄ってくる。


「は、初めまして」

「はい、初めまして! えーっと〜、キミがこうでこの子がそうでふむふむなるほど〜」


 何かを考える仕草をしながらアリスティドとメルを交互に、時折ナディア、ゼフィールを見ている。アリスティドは初対面のその対応に、つい後退りしてしまう。


「おっと逃げないでね〜。もう少しで視えそうなんだな……っと!」


 眼鏡を数回掛け直したエリューが大声で叫んだ。


「ゼフィ! また人間を連れてきたな! ウチじゃあもう飼えませんよ⁉︎」

「飼うつもりはない」

「本当に言ってる⁉︎ こんな逸材を引き連れてきておいて⁉︎ やるねぇ〜」

「……静かにしろ」


 ゼフィールは腕を組み、呆れたように瞳を閉じた。アリスティドの目に見えたのは、エリューの夜空よりも輝いている、瞳の眩しさだった。


「いやだってさ! 大親友のキミが、久しぶりに帰って来たと思ったらだよ! まさか()()()()と一緒なんて想像出来ないじゃん‼︎」

「調べ物があると、連絡した筈だが」

「その連絡、ボクに届いてませーん」


 そんなやり取りをひとしきり眺めた後、気まずさと共にアリスティドは聞いてみる。


「あの……彼は?」


 ゼフィールが溜息をつきながら答える、その前に。エリューと呼ばれた男が、先に口を開いた。


「あーごめんねー! ボクはエリュー。ゼフィの大親友やってます!」

「大親友ではない」

「またまた照れちゃって〜。普段はゼフィの補佐みたいな、そんな感じだよ! キミ達の名前は? なんて言うの?」


 ずれた眼鏡をクイと上げながら、にっこり笑いかけてくるエリュー。情緒に飲まれそうになりながらも、なんとか口を動かす。


「えと、僕はアリスティド」

「私はナディアです。よろしくお願いします」

「ふむふむ、よろしくっ! この子は?」

「この眠っている子は、メルです」


 アリスティドの紹介を聞いた途端、そわそわしていたエリューが、ピタリと静止した。メルを指差し、眼鏡の奥の瞳が鋭くなる。


「……もしかしてキミ、この子に名前付けた?」

「メルの事ですか? なんで分かる、ん⁉︎」

「すっげ〜〜〜〜!!」


 いきなりアリスティドに抱きつくエリューと、困惑で心臓が止まりそうになるアリスティド。ナディアはついていけず、頭を抱えた。


「そうかだから祝福が! へー。いつどうやってこの子と契約したの? 多分それで発動してるよね。うわー、だからキミの核はそんなことになむ」

「エリュー。悪い癖だぞ、少し黙れ」


 エリューの口は、ゼフィールの手によって塞がれる。アリスティドから無理矢理剥がされたが、それでも喋ろうともごもごしながら、腕を忙しなくばたつかせていた。


「ここで話していても、拉致があかん。一先ず家に入って休め」


 ゼフィールがアリスティド達に声をかける。


「ぶはっ! 死ぬかと思った! じゃあボクはお茶淹れてくるよー!」


 ゼフィールの手をなんとか剥がしたエリューは、その勢いのまま、先に屋敷に戻って行ってしまった。横目で追いながら、ゼフィールが呟く。


「あいつうるさいだろ」

「あ、え……まぁ、元気を貰えるのは、確かです」

「物は言いようだな」


 ふっと笑いながら、屋敷に向かうゼフィール。アリスティド達も後を追う。


(祝福……ってなんの事なんだろう)


 エリューの言葉に素朴な疑問が浮かぶ。メルに名前をつけた事が、何かに触れてしまうのだろうか。それだけが気がかりで、考えながら歩いていたら、屋敷の柱に激突した。

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