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13.念願の謁見

 望んでいた謁見の時間、城の中。

 純白の高い天井、真紅の長い廊下。


 まばらな靴の音とアリスティド達の、呼吸だけが反響している。怒りに満ち、怒号が降り注ぐ階段を昇った時とは打って変わり、城の中は強烈に静かだった。

 窓からは陽の光が、神々しく差し込む。


 アリスティド達など気にかける様子もなく、ゼフィールは歩を進める。なんとか追いつくよう、駆け足気味にあとを追いかけて行く。

 進んでいく度に、アリスティドの心臓の鼓動が、否応なく跳ねる。汗が滲んだ片手で押さえ付けた。


(メルの家族を見つけ出して、自分の未来を掴む)


 緊張を決意で押し留めるように、メルを強く抱える。ナディアは凛とした表情で、しかし拳で覚悟を握りしめながら、歩き続けた。

 永遠に思える時間を進み、ゼフィールの足がある扉を前に、ピタリと止まった。


「……ここだ」


 半身だけをこちらに向けて、冷たい瞳のままゼフィールは言った。謁見の間に到着したのだ。

 それを認識した途端、アリスティドの体からぶわっと汗が吹き出る。呼吸を忘れ、息が詰まった。

 ナディアが肩に触れる。


「深呼吸して、アリス。大丈夫よ。ここにいるわ」


 ハッとして上を向き、深く息を取り込んだ。


「ありがとう。……ナディアは、随分落ち着いてるな」

「そうかしら」


 笑顔と共に胸の前で握るその手は、細かく震えていた。メルはただ前を向き、言葉を発することはない。ゼフィールか、あるいは扉の先の主を、見つめているようだった。


「開けるぞ」


 空気を読まないゼフィールの淡々とした態度を皮切りにして、目前の大きな扉が鈍く重い音をたてながら開いていく。


 広い部屋の中央。奥から伸びた後光を背にし――玉座に、主が鎮座していた。


 ゼフィールは慣れた足取りで前へ進み、玉座の横に立つ。アリスティドたちはゆっくりと両脇の兵士を抜けて、地面へと跪いた。


「連れてきたぞ、シャルル」

「ちょっ……!」


 あまりにも無礼な国王に対するゼフィールの口調に、ナディアは思わず顔を上げた。青ざめた様子を横目に、ゼフィールは手を腰に当て突っ立っているだけ。


「良い良い、昔から此奴はこんな感じなのだ」


 中央に鎮座した初老の男性はにっこり笑ってそう言った。

《歴史上最も優しい王》

 シャルル・ド・ルクエール四世。

 肩書き通りの優しい表情だ。


(おもて)を上げよ、ニコラスの息子。私はお前の話が聞きたいのだ」

「陛下、私がニコラスの息子であると、なぜ……?」

「……ゼフィールから聞いたのだよ」


 何かを考えるかのように、目を細めて国王・シャルルは言う。違和感を覚えたのも束の間、ゼフィールが無言で腕を振った。

 一瞬、背中にピリリとした小さな感覚が、アリスティドを気付かせる。後ろから現れた薄墨色の淡い光。そのまま宙を漂いながら、ゼフィールの手元へ。


「悪いがお前の事は、調べさせてもらった」


 光と戯れながら、呟くゼフィール。その光景を見たナディアが、なにかに気付き瞳を見開いた。


「そんな、精霊を、そんな風に……最低!」

「精霊……?」

「御名答。察しが良い女だ」


 ローブを翻し、ゼフィールは次の言葉を紡ぐ。


「お前たちを調べたんだよ。こいつを使って、な」


 薄く笑みを浮かべながら、そう言った。精霊、と称された小さな光は、まとった粒を微かに震わせている。


「精霊を監視に使うのは、禁止されているはずよ、ゼフィール! その子、怯えてるじゃない!」

「察しが良いと思ったが、見当違いだったかな? 俺の肩書きを忘れたか。ナディア・ノイレンヴァイン」

「っ……!」


 返す言葉もなく、ナディアは黙ってしまう。

 王立精霊魔術研究所、所長。国の廷臣。


 違反である行為が、例外的に認められていると言われてしまえば、それまでだ。国王に逆らうことになる。


「はっはっは、放っておきなさい。その男は私の言う事は聞かないが、明確な理由があってそうしたのだ」

「別に言わなくていい」


 優しいと呼ばれる所以だろうか。シャルルは(ゆる)しを簡単に言い放った。ナディアとゼフィール、相性が悪そうな2人を横目に、アリスティドは預かっていた木箱を差し出す。


「……陛下、父から託された書状をお持ちしました」

「ほ、そうか。ゼフィール、それをこちらへ」

「あぁ」


 手紙の入った木箱を取り出す。ゼフィールは乱暴に取り、右手に魔力を込めた。

 木箱は微かな光を放ってすぐに元通りになる。王に危害を与えるものではないのかどうか、確認したようだ。


「なんだこの雑な封印は? 素人か?」


 ぽつりと呟かれたその言葉に、ナディアはぴくりと片眉を上げた。


「理由があんのよ。お黙んなさい」

「おー怖い」


 静かに怒るナディアに、両手を挙げて降参の姿勢をとるゼフィール。嘲笑(あざわら)うようにニヤリと笑っている。どこを切り取っても嫌な奴だ。


 それから木箱は、ゼフィールの操る風によってシャルルの手元へと渡る。メルはというと怯える様子も無く、シャルルの瞳の奥を捉えている。まるでなにかを悟っているかのようだった。


「これ。旧友からの便りを雑に扱うでない」

「ふん、知らないね」


 力の抜けそうなやり取りが続く。アリスティドは話を進めなければ、と口を開いた。


「申し遅れました。クラッソ村の長、ニコラスの名で馳せ参じました。アリスティド・ディエ・ココです」

「ナディア・ノイレンヴァインですわ。陛下」


「そしてこの子が、……あーっと、メル、です。村の掟で――」

「そうか! ニコラスの息子も遂に15になったか。めでたいな。今、手紙に目を通す、少し待ちなさい」

「はい。……あの、申し訳ございません。手紙の封印なのですが……」

「封印? あぁ、封が開いているな。案ずるな。手紙はこうして、私の手元にあるではないか」


 そうして長いようで短い沈黙が訪れた。手紙の封印について、それなりの罰を受ける覚悟を持ってきた。しかし、あっさり流されてしまい、拍子抜けしてしまう。


 ふむ、と呟き一通り目を通し終えたシャルルは、ゆっくり立ち上がり前に出てくる。3人の前に目線を合わせるように、しゃがみ込んだ。


「陛下、それはいけません!」

「気にするな。それよりもすまなかった。早くこれを渡したかったろうに、さぞ待っただろう?」


「僕たち……いえ、私たちはまず、この子の家族を早く見つけてやりたい一心でした。それが叶うのならば、いくらでも待ちます」

「良い心がけだ。読ませてもらったよ。ニコラスらしい、気遣いを感じる内容だった」


 太陽のような微笑みを浮かべ、アリスティドたちの心情を察して慰めてくれているシャルル。アリスティドが次の言葉を発しようとして、シャルルの顔を見上げた。


 目線が合わない。


 シャルルの視界は、メルだけを捉えている。


「喜んで協力しよう。城を拠点にしても良い。ただし、この幼子はこちらで預かろうじゃないか」


 国王の瞳の奥は、決して笑っていなかった。

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