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12.怒りの建国祭

 翌日、建国祭まであと2日。


「あれっ君たち確か昨日来た……ごめんっ! 今日も通してあげられないよ〜!」

「えぇっ⁉︎」

「なっ……⁉︎」


 昨日同様に立っていた、ふくよかで優しそうな門番。困り顔で、謝罪をしてきた。



さらに翌日、建国祭まであと1日。


「申し訳ありません! 本日も謁見は中止であります!」

「「…………」」


 6人並んだ若い門番の内、1人から告げられる。今までよりも厳重な警備だが、アリスティドもナディアも返す言葉が上手く出てこない。

 貴族街を抜けた先の階段にできた長い列をやっと抜けてきたのに、と揃ってうなだれた。


「急に謁見ができなくなったのは、それなりの理由があるんですよね?」


 アリスティドが静かに口を開く。怒りからというより、違和感を覚えたから、の方が正しいだろう。何故、連日断られるのか。

 門番たちの反応からすると、建国祭前だからという理由ではなさそうだ。アリスティドの淡々とした瞳を捉えた若い門番が、緊張したように姿勢を正す。


「はっ! 誠に申し訳ありません! 国王様がせもごっ!」

「馬鹿野郎! 殺されたいのか!」


 やけに生真面目な門番1の口は、同期らしき門番2の手によって封じられる。


「すみませんが、お引き取りを」


 冷静を保った門番3が代わりに口を開く。断固として、城へ入ることを拒否されてしまったのだった。



「――――……ッ駄目だ待てない!」


 机に両手を叩きつけ、勢いよくアリスティドは立ち上がった。食事中のメルの小さな手からパンがこぼれて、悲しそうに床を見つめている。


「びっ……くりした。アリスがそこまで怒るの、久しぶりに見たかも」


 そう言って、ナディアは目をまるく見開いたまま固まってしまった。


「あっ驚かせてごめん、つい……。メルもごめんな。でも、流石にこれはないだろ。絶対なにかあるって」

「それはそうだけれど……私達には関係ないわ」

「関係なくても明日、なんとかして国王に会う」


 ナディアは目を瞑る。言い出したら止められない。

 首を横に振り、アリスティドに向き合う。


「私もここまで一緒に来たからには、なんとかするわ。幼馴染特別料金よ」

「ありがとう。……大人なったら払うよ」


 子どものわがままだと思う。けれど、王都で自分達だけでメルの家族を探すのも限界がある。ここに来て十分分かったつもりだ。

 建国祭前で人が溢れかえった街を、進むだけで手一杯な自分の力不足に苛ついてしまう。無意識に歯を食いしばる。結局まだ、大人になりきれない。



 ――――そして建国祭は、初日を迎える。



 今までよりもずっと早く起きた一行は、まぶたをこじ開けて城へ向かう。日が昇り切っていないというのに、街は人で溢れている。


 風が運ぶ、屋台から香るお腹が空きそうな匂い。

 浮かれた若者たちの笑い声。

 到着した馬車の軽快な足音。

 全てが自分たちを、鼓舞しているような気がする。


(絶対に国王に会って話をつける)


 アリスティドの意思は、まるで鋼の如く固い。手紙を開封してしまったことについては、未だ弁明を考えている最中である。情けない話だ。

 けれどもアリスティドはもう、区切りをつけていた。自身の将来を決める通過点として、避けることが出来ないとして。


「よし、国王に会うぞ!」

「了解!」

「あい!」


 3人揃って着実に一歩を踏み締める。しかし貴族街に着いた時、思いがけない光景が広がっていた。


「なんだよ、これ……」


 王宮の入り口から貴族街までを、結ぶ階段。そこへ長蛇の列ができ、人で溢れている。

 怒号、絶叫、悲鳴、阿鼻叫喚。

 最後尾は貴族街の門辺りにまで伸び、兵士が整列させながら陣取っている。商業地区の楽しさとは真逆の光景に、アリスティドは呼吸を忘れそうになった。


「すみません、これは一体なんなんですか?」

「あー……君も謁見しに来たの? それとも抗議に参加して来いって言われた口?」

「抗議、ですか」


 アリスティドは2人を離れた所に待たせ、兵士に話しかける。初日に出会った無愛想な門番だった彼は、酷く疲れていた。深い隈と()けた頬が目立つ。


「そ。屋台を出してる奴やギルドの奴ら、貴族様なんかもいるよ。みんな謁見出来ないもんで、怒り狂ってんのさ」


 溜め息を深く吐きながら、兵士は腰を捻って疲労回復に努めている。どうやらこの状態に限界なのは、アリスティド達だけではないようだ。


「……こうなるとは思っていたけれど、想像していたよりも人が多いわね。どうする? 強行突破する?」

「え、うーん、それはちょっと、いやでもな……」


 ナディアへ事情を説明するが、現時点で国王に会えそうにもないのは明白だった。絶対話をつける、と決めたものの、目の前の地獄のような光景が意思を弱くさせる。


「結局僕には、なにもできないじゃないか」


 呟いた言葉を否定するように、自然と拳に力が入る。状況を打破する力が無い現実が、苛立ちを加速させた。

 自分自身の力でなんとかしたい。思うのと同時に、握りしめた手を優しく包む、小さな手。


「……メル?」

「あいす、らいじょーぶ」


 メルのぶれることの無い真っ直ぐな瞳が、頭の奥を覗くようにこちらを見つめていた。指先から全身に、温かい空気がじわりと広がる。

 それに気付いて、続けて声をかけようとした。

 だがメルの視線は既に別の方へ向いていて、先程までとは真逆の眼光だった。



「待っていたぞ。アリスティド・ディエ・ココ」


 ひやりと、ぞわりと、背筋が凍った。

 そんな感覚がアリスティドを襲う。


 全身が漆黒に包まれた、氷山よりも冷たそうな瞳――ゼフィールだ。こちらを観察するように壁にもたれ掛かっている。不気味なその視線に、嫌悪感を覚える。


「なんで僕の名前を……」

「フッ、それは後のお楽しみだ。ついて来い、お前らは特別枠だ。俺のな」


 ゼフィールはローブを翻し、階段を登っていった。本当について行っても、良いのだろうか? 周りの視線が突き刺さり、いたたまれない。それにいざ許可をもらえても、今までの積み重ねがアリスティドたちには不安材料となる。


 悩んだ末、最後尾にいた兵士に目線を送った。ぽかんと、ゼフィールの後ろ姿を眺めている。兵士自身も聞かされていないのだろう。


「あ、あの……本当に大丈夫ですか?」

「ゼフィール様が言うのなら、間違いないとは思うが……」


 周りが慌てふためく中、ゼフィールは堂々とした態度で足を止めた。その一つひとつの行動が、腹に槍が突き刺さったような感覚となる。


「おい、なにをしている! さっさと来い、アリスティド・ディエ・ココ」


(頼むから名前を呼ばないでくれよ……)


 腹を括り、アリスティドはゆっくり前へ進んだ。



「おまけ付きか。有難い」


 アリスティドに聞こえないように、にやりとゼフィールは笑った。

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