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第7話 三角帽子を被ってみた

 長い一日がやっと終わろうとしていた。

 今日は…六時間箒で移動して、移動途中に妖精助けと魔獣退治、そして移動後はリヒトと戦って……かなり盛り沢山な一日だった。

 アリシアさんが私のために豪華な宿を取ってくれて、私は今、宿のベッドで寝っ転がっていた。シーツの肌触りが心地よく、家のベッドとは比べ物にならないほどふかふかで、体が沈み込んでいく感覚が堪らなく気持ちいい。もう動きたくない…。

 明日は午後、また魔法省の支部に行って、アリシアさんに今後のことを教えてもらう予定。…なんだかんだ来てしまったが、もう今更戻ってもママから変な目で見られそうだし、…とりあえず何日か様子見かな。私はそう自分に言い聞かせながら、重い瞼を閉じた。


 翌朝、朝の光がカーテン越しに柔らかく差し込む中、私は普通に目覚めることができた。あの神様が出てくるかもと警戒していたが、疲れていたためか夢を見ることなく朝を迎えていた。

 宿の食堂で朝食を食べた後は午後まで時間があるので、街をぶらぶら散策してみることに。都会初心者である私は、お店を横切るたびにどんな店なのかチラ見を繰り返す。…でも、お金をあまり持っていない貧乏人なのでチラ見だけで終わってしまう…。悲しい…。


「お嬢さんお嬢さん」


 不意に声をかけられた。顔を向けると、道の脇で一人のおじいさんが手にマッチを持って掲げて見せた。


「マッチはいらんかえ?」


 ま、マッチ…!?これは……マッチ売りの少女ならぬマッチ売りのおじいさんか…!?

 でも残念ながら、今はそもそも寒い時期じゃないし…、これが少女なら買うかもしれないけど、おじいさんはちょっと…。

 私は困惑するが、まるで良い獲物を見つけたかのようにおじいさんはぐいぐい来る。


「これはただのマッチじゃないんだえ。使う人の魔力に反応するマッチなんだえ」

「へぇー…」


 なんかついつい感心してしまった。一体どんな需要が…?


「魔力の量が多いほど燃え方が激しくなるんだえ。魔力が凄く多いと爆発的に燃えるんだえ」


 …なるほど。魔力量が多いほど燃え方が激しくなるのか。…お、良いこと思い付いた。


「おじいさん、一箱ください」

「おっ!ありがとうなんだえ!」


 私はテンション上げ上げになったおじいさんにお金を渡し、マッチの入った小さな箱を受け取る。…なんか乗せられたかもしれないけど、試しに一本…。

 私はマッチを一本手に持ち、擦ってみると―――


 ゴオォォォォオオオ!


 小さなマッチからとは思えない爆炎が空高く燃え上がった。あまりの凄さに唖然とする私。もちろん周りの人たちも皆立ち止まってギョッとした表情で注目している…。


「す、す、すごいんだええぇぇ!こんな激しいのは見たことないんだえぇぇ!」


 おじいさんも目を見開いて大興奮している。…やばい、なんか恥ずかしくなってきた。…でも、これを使えば手っ取り早くあいつを黙らせられるかも…。

 私は爆炎のマッチを手に持ちながらフッとにやけるのだった。



 午後になり、私は魔法省の支部へと向かう。入口のところでアリシアさんが待っていてくれた。黒い三角帽子の下から覗く金色の髪が、午後の陽光を受けてきらきらと輝いている。


「アリシアさん!」


 私が声をかけると、反応してこちらに目を向けて柔らかな笑みを浮かべた。…うん、今日もきれい。


「シエルさんこんにちは。よく休めました?」

「はい!もうぐっすり寝ましたよー。おかげで夢も見なくて済みました!」


 アリシアさんは可笑しそうにクスクスと笑う。二日目にして私とアリシアさんは随分と打ち解けた気がする。昨日の強制連行の件はもう水に流そうかな。

 私達は歩きながら、昨日の宿の部屋が広かったのと、ベッドが家のそれよりフカフカで感動したなど、他愛もない話をする。

 そして、昨日と同じ応接室に案内された。私とアリシアさんはテーブルを挟んで向かい合うように座る。


「…ちなみに、まだ魔女になろうとは思っていません?」


 アリシアさんは遠慮がちな感じで尋ねてきた。その瞳に少しの期待が籠っているように見える。…やっぱり気になりますよね。


「まだ…そのちょっと…覚悟が足りなくて…」


 私が後ろめたそうに答えると、アリシアさんは微笑みを浮かべた。


「いいんですよそれでも。…ただ、シエルさんが三角帽子被るところ見てみたいと思ってまして…。すごく個人的なんですけど…」

「そ、そこですか!?い、いや…まぁ…私も被ってみたいかなー…とは思ったりもしたり…」


 なんかモジモジしてしまう…。指先で髪を弄りながら、視線を泳がせる。――すると、アリシアさんは自分の三角帽子を取って私に差し出してきた。……え?


「試しに被ってみます?」


 心なしかアリシアさんの目がキラキラしているように見える…。


「い、いいんですか??アリシアさんのなのに!」

「いいですよ。減るものじゃないですし」


 笑顔でそう言われたので、私はドキドキしながら帽子を受け取って、ゆっくりと頭に被せてみた。

 初めて被る魔女の帽子…。魔女になっていないのに、なんだか不思議な気分。

 私が三角帽子を被ってみせた途端、アリシアさんが目を輝かせた。


「か、かわいいです!!すごく似合ってますよ!!」


 普段とは明らかに違う興奮した声色。私は恥ずかしくて顔を赤らめてしまう。そしてあろうことか、アリシアさんはそのまま勢いで抱き着いてきたのだ。


「え…えぇぇ!?アリシアさん!?」


 抱き着かれた私はもう頭が沸騰!困惑しながらアリシアさんを見る。すると、アリシアさんも顔を上げて、至近距離で目が合う。青い瞳に自分の顔が映っている。ち、近い~~!!


「もうかわいすぎですシエルさん!私やっぱり決めました!もう絶対シエルさんを魔女にさせます!!」

「えぇーー!?そんなっ…!凡人の顔ですよ!?」

「凡人なんかじゃありません!!もっと自分に自信を持ってください!もう世の中、あなたのような魔女に助けられたい人がたくさんいるんですよ!?」

「えぇ!?えぇ!?」


 目を輝かせたかと思えば、今度は真剣な目を向けてきた。慌ただしいったらない。私はもう完全に押され気味である。


「それでいて、昨日の勝負の華麗な動きに凛々しい顔!もうイチコロですよ!」

「い、イチコロ!?」


 もうアリシアさんのテンションが凄いことになっている。私は恥ずかしさと動揺で世界がグルグル回っている。

 恥ずかしすぎて、さっきのマッチみたいに爆炎で燃え上がってしまいそう…。

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