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第6話 魔法省の元同級生 後編

 成り行きでリヒトと勝負することになってしまった私。…あいつ、もう既に敵意が凄い。

 私とリヒトは建物外の広場に連れられた。ルールは、広場の奥に立つ大木のそばに置いてある赤色のダイヤを、先にリアーネさんに渡した方が勝ちというもの。

 広場の中央で、私はリヒトと面と向かう。背はリヒトの方が高いので、必然的に私が見上げる形になるけど、こいつは冷たくて、相手をコケにしているような視線で見下している。もう今すぐボッコボコにしてやりたい…。


「ルールは先程説明した通りです。戦術はお二人の自由ですが、あまり大規模な魔法を使うと周囲に影響が出ますので、そこはくれぐれも気を付けてください」


 アリシアさんがリアーネさんの隣で説明する。広場とは言え、街中でド派手な魔法を使うとただの迷惑者になってしまうので、そこは魔法使いの倫理に基づいて魔法を行使することが大事。

 …まぁ、こいつ相手にそこまで強力な魔法はいらないでしょ。

 私は反抗の意を込めて不敵な笑みをリヒトに向ける。


「随分と余裕じゃねぇか。卒業してから実戦経験あるのか?」

「ん?無いけど?」

「はっ…、言っとくが、俺は魔法省に入ってから何回も保安業務で実戦経験を重ねている。魔法学校の時のお遊びとは訳が違うぜ?」


 あー出た出た。また自慢だよ…。もうこいつ、何回自慢したら気が済むのやら…。


「では、始めてください」


 アリシアさんの合図が。…それじゃ、さっさと終わらせますかね。

 ――次の瞬間、リヒトが杖の先を私に向け、風魔法で私を吹っ飛ばした。私は5メートルほど吹っ飛んで地面に倒れ込む。

 リヒトはすかさず杖を上に掲げ、杖の先から雷を放った。


 バチバチッ!!

「…!!」


 激しい電撃は私に直撃―――することはなかった。私が瞬時に広場の砂で盾を作ったからだ。私は倒れた体勢のまま杖をリヒトに向け、そのまま盾となっていた砂を一斉に銃弾のように放った。

 リヒトはそれを魔法障壁でガードする。その隙に私は風魔法を使って体を起こし、箒を発現させて急発進。猛スピードで赤色のダイヤを取りに大木へと飛んでいく。


「させるかよ!!」


 リヒトは杖を私に向け、引き寄せ魔法を発動。私の飛ぶスピードがガクンと落ち、ついには止まってしまった。


「へぇ~…、なかなかやるじゃん」


 止まったものの、私は余裕そうにリヒトに目を向けて口角を上げる。それがあいつの癇に障ったのか、離れていてもわかるくらいに苛立ちを露にしていた。


「ふざけやがって…!ぜってぇー仕留めてやる!!」


 リヒトは風魔法を使って勢いよく突進。突進しながら杖を止まっている私に向け、猛火を放った。私も杖をリヒトに向けて、杖の先から勢いよく水流を放った。水流は猛火を打消し、そのままリヒトへと迫る。

 しかし、リヒトは寸前のところで身を屈めて水流を回避し、そのまま私を横切って大木へ一直線に迫っていく。私も引き寄せ魔法が消えた瞬間、すぐさまスタートダッシュのように猛スピードで大木へ向かう。

 箒で飛ぶスピードの方がリヒトの走るスピードよりも速いため、間際で追い抜かし、赤色のダイヤには私の手が先に近付いた。――そして、私は箒で飛びながらダイヤを拾い上げた――次の瞬間、


「うぐっ…!」


 私の体が大木に縛り付けられた。顔を下に向けると、鎖が私の体ごと大木に巻き付けられていた。私は縛り付けられたときの衝撃でダイヤを地面に落としてしまう。リヒトはそれを拾い上げ、不敵な笑みを浮かべた。


「初めからこの戦法だったのさ。まんまと引っ掛かりやがって。はは」


 リヒトは嘲笑い、箒を発現させてリアーネさんに向かって急発進。ほんとに終始私を見下してるな…。たぶん今あいつは、勝ったも同然だと思ってる。

 …でも残念ながら、私は結構しぶといんだよね。

 私は腕が動かないので、杖を持つ手だけを動かして鎖を解いていく。そして、体が解放されたらその鎖の先端を輪っかにして、輪投げのようにリヒトへ向かって放った。鎖の輪っかは丁度うまい具合にリヒトの体へすぽっと入り、そのまま縛り付けた。


「なっ…!?」


 突然の衝撃にリヒトが驚愕したのも束の間、体が箒から転げ落ちて、ダイヤを手放してしまう。私はその隙に箒で飛んで接近し、引き寄せ魔法でダイヤを手早く回収。そのままリアーネさんのところまで飛んで、彼女の前で降り立って手渡した。


「はい。お持ちしました」


 私はにこやかな笑顔を向けた。リアーネさんは驚いた表情を見せた後、顔を綻ばせた。


「シエルさんの勝ちね」


 やった…!勝ったよぉ~~!嬉しいな~~!小躍りしたい…!むかつく野郎とは言え、勝負に勝ったことは純粋に嬉しい。

 一方、リヒトは鎖が消えて動けるようになると、ゆっくりと立ち上がって服についた砂を払う。そこにアリシアさんが近寄っていった。


「リヒトくん。あなたの魔法の腕も確かだけど…、素直に負けを認めなさい」

「負け?…あんなのはまぐれですよ。鎖の輪が偶然入らなければ俺が勝ててた」


 アリシアさんに対し、リヒトは視線を合わせずにそう答える。…けっ。この期に及んで意地っ張りだな。


「まぐれじゃない。あれはシエルさんの魔法の精密さによるものよ。リヒトくん、シエルさんだって地道に努力してるの。あなただけが努力をしているわけじゃないの」

「……。もう勝負は終わりましたから、これで失礼します」


 リヒトはボソッとそう告げると、箒に乗ってどこかへ飛んでいってしまった。その様子を見て、アリシアさんはため息をつく。


「ごめんなさいねシエルさん。本当は、彼が負けを通して心を入れ替えてほしいと思ってたんだけど、なかなかうまくいかないものね…」


 リアーネさんもため息交じりに困り顔を浮かべる。……あの野郎、支部長まで困らせるなよ。

 とりあえず、私が元気づけないと。


「大丈夫ですよ!私、リヒトくんより強いので、何回でも勝負して全部勝ってやります!そうすれば、そのうち負けを認めてくれると思います」


 私が元気よくそう告げると、2人は可笑しそうにクスクスと笑い、笑みを浮かべた。


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