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第28話 長閑な町の危険な催し 前編

 広大な森を抜けた先には畑が広がり、畑のさらに向こうにロファの町がある。箒で回れば数分くらいで一周できちゃいそうなほど小さな町だ。空から眺めただけでも平和で長閑な雰囲気が伝わってくる。私たちは軽く町の上空を回った後、役場に顔を出そうと降り立った。

 役場の建物は民家四〜五軒分くらいの、この小さな町にしては大きな建物だった。リヒトが先頭に立って入口の扉を開ける。


「こんにちは。魔法省の者です。巡回に来ました」


 リヒトは受付の男性に声をかける。その中年の男性はジロッとリヒトを見た後、今度は私とアリシアさんに目を向けた。なんだか視線がキツいような…。


「見ない顔だな」


 男性はまるで不審者でも見るかのように警戒心を露わにしている。何もそこまで…と思うくらいだけど、あまり人の出入りがないだろうから、顔見知りじゃないとこういう反応になるのかな。


「私はリヒトと言います。数日前にエクサロ駐在所に来たばかりでして」

「ほぉ、そうなんか。で、なんの用?」


 男性は少しも遊びのないぶっきらぼうな表情と口調で用事を尋ねてきた。私だったらちょっとムスッとしちゃいそうだけど、リヒトは態度を変えずに話を続ける。


「この町の近況についてお伺いしたく、町長さんにお会いできないでしょうか?」


 リヒトが用件を伝えると、男性は再び無言で私たち三人を観察するように見た後、ゆっくりと立ち上がって建物の奥へと向かっていった。…いや、なんか言ってよ。


「とりあえずここで待ってましょうか」


 アリシアさんがそう告げる。…なんか気まずいというか何というか…微妙な空気になってしまった。長閑な町だなぁと思ってたのに。

 待つこと五〜六分、奥から初老の男性が一人やってきた。この人が町長のようだ。…にしても呼ぶだけでこんなに時間かかる…?


「魔法省の人?初めて見る顔だねぇ」


 町長も、さっきの男性ほどじゃないけど、物珍しそうに私たちに目を向ける。…すると、今度はアリシアさんが前に出た。


「魔法省のアリシアという者です。お忙しいところすみません。本日は巡回でこの町に参りました。最近気がかりなことなどあれば、お力になりますのでお話しください」


 さすがアリシアさん。丁寧さを見せつつ、毅然とした態度で話している。これにはマイペース町長も合わせざるを得ないだろう。

 しかし、町長は予想に反して怪訝な表情を浮かべた。


「特にこれといって無いよ。見てわかる通り平和な町だ」

「それなら良かったです。しかし、最近魔獣が増えていますので、気をつけてください。ミロルも街中に出没しました」

「そうかい。そんな遠いところの話言われてもねぇ。そうだ、ライズさんにこれ渡しといてくれ」


 町長はそう言って封筒を差し出した。…あの懲戒免職確定のど腐れ元所長宛?もちろん、アリシアさんは素直に受け取れるはずもなく、言いづらそうな表情を見せる。

 受け取ろうとしないアリシアさんに町長は眉間に皺を寄せる。


「ん?なんで受け取らないんだ?おつかいもできねぇのか?」


 次の瞬間、私は我慢できなくなってアリシアさんの前に出た。


「ちょっと!さすがに失礼じゃないですか!?」


 私は町長に噛み付く。偉いかなんか知らないけど、人にものを頼む態度か!?

 案の定、町長は短気なようで怒鳴り声を上げた。


「なんだテメェ!俺は町長だぞ!」


 町長はすごい剣幕だけど、私はビビらずに真っ向勝負の姿勢。――その時、リヒトが町長から半ば無理矢理封筒を引き取った。


「怒らないでください町長さん。封筒渡しておきますよ。それではこれで失礼します」


 それだけ言って、私たちに目配せする。私とアリシアさんはリヒトに続いてすぐに建物を出た。


「今度ライズさんに会ったらテメェらのこと言っとくかんなぁ!」


 後方で町長がまだ怒鳴ってる…。


「うるせぇバーカ。ライズはもうクビだよ」


 リヒトが振り返って小さな声で吐き捨てる。…とんだ災難だったけど、あのまま言い合いしてても埒が明かなかっただろうし、リヒトのファインプレーに感謝。


「ありがと」


 私は小さくお礼を言う。…と、リヒトが私に目を向けた。


「俺はあんたが魔法で攻撃するんじゃないかとヒヤヒヤしてたぞ」

「あのね…」


 せっかくお礼言ったのに、途端に失礼なこと言うなコイツ…。さすがにそこまで見境なくないわ。


「ありがとうリヒトくん。私も助かりました」


 アリシアさんもお礼を言う。そして、リヒトの持つ封筒に目を向けた。


「その封筒…とりあえず持って帰る?」

「いえ、開けちゃいましょう」

「え…!?」


 リヒトがまさかの即答だったので、アリシアさんが珍しく驚いてしまった。


「どうせ本人の手には渡らないでしょうし」


 リヒトの意見に、私は確かにと頷く。どうせ持ってても荷物になるだけだし、扱いに困る物は早めに処理したほうがいいよね。


「確かに…。それじゃ開けちゃおうか」


 アリシアさんも開けることに賛成し、リヒトは早速封筒を開けてみた。…中には折り畳まれた紙が数枚入っていた。リヒトは紙を広げて、私が横から覗き込む。紙に書かれていた文字は目を疑うものだった。

 ……妖精狩り会のご案内…?……え?何これ…?

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