第25話 巡回(ピクニック)へ 前編
お昼になり、私達三人は近くの食堂でランチを食べていた。私は食の手を止めて、隣で黙々とソーセージを食べるリヒトを睨みつける。その敵意剥き出しの視線を感じたリヒトは、フォークを持つ手を止めて視線を合わせてきた。
「まだ根に持ってんのか」
「当たり前だろバカ」
そんなやり取りに対面のアリシアさんは苦笑いを浮かべる。けど、無理に口出しせず、傍観する気満々だ。
「魔力はバカみたいに持ってるのに、器は小さいな」
「リヒトだってあれだけで勝ったとか言っちゃうなんてちっさいよ〜?」
私は負けじと虚勢を張らんとばかりに不敵な笑みを浮かべて見せる。しかし、リヒトにはあまり効いていないのか、再びフォークを動かしてソーセージを口へと運ぶ。
「〜〜!」
私は無言の威圧というやつを目一杯浴びせてやる。
「早く食べないと冷めるぞ」
リヒトがまだ食べ途中の私の皿を見て指摘する。確かに、さっきから鬱憤を晴らすことを優先し過ぎていた。このままでは無駄に睨みつけるだけで時間が過ぎてしまいそうだったので、仕方なく休戦して食を優先することに。
私が食べることに意識を向けると、リヒトが私に聞こえる声でアリシアさんに耳打ちした。
「隙があればまた被せてやりましょう」
「そうですねっ!まだまだ物足りないですし!」
「アリシアさんっ!同調しないで下さいよ!」
リヒトの作戦に目をキラキラさせるアリシアさん。もうダメだこの人…。私に魔女の格好をさせたい欲が強過ぎる…。
こうなったら絶対に防いでやる…!アリシアさんとリヒトがタッグを組んだとしても、私は全身全霊で立ち向かってやる…!
私は一種の対抗心が芽生え、そう易々と魔女になるものかと思うのだった。
ランチを食べ終えて食堂を後にした私達、私はリヒトへの警戒心を解かない。いつ何時帽子を被せてくるかわからないこの状況…。私はチラチラとリヒトの動きをチェックする。
「俺はこれから北側の巡回をして来ます」
予想に反して、リヒトは真面目な表情でアリシアさんにそう告げた。確かに昨日も、書類整理だけじゃなくて巡回もするって言ってたな。
「今日は土曜だし、休みにしようよ。まだ疲れも抜け切って無いだろうし、しっかりと休養しないとね」
アリシアさんは優しい声色で、まるで聖母のよう。生意気リヒトもアリシアさんの前では素直にならざるを得ない。けど、リヒトは少しばつが悪そうな表情を浮かべた。
「ありがとうございます。…でも、北側はここに赴任してから一度も巡回できてなくて…、そろそろ行かないとまずいと思うんです」
私はリヒトの顔に目を向ける。私と言い合いしてる時とは真逆の真剣な顔…。私はすぐに目を逸らしてしまった。
「リヒトくんの責任感は凄いよ。でも…休息も必要だし……」
リヒトの意志を尊重しつつも、やっぱり休むことも必要だと悩むアリシアさん。すると、何か思いついたのか、晴れやかな表情で手をポンと叩いた。
「そうだ!ピクニックついでに巡回するのはどう?」
「ピクニック…ですか…?」
アリシアさんの予想外の提案にリヒトはポカンとしてしまう。私も私でポカンとしている。…まさか、リヒトとピクニック…?
「あ、アリシアさんっ!私は留守番してます!」
「ダメですよ。シエルさんは強制連行です」
「それ一番最初のやつ!」
アリシアさんと最初に出会った時以来の強制連行宣言…。ダメだ…、私も聖母には逆らえない…。うぐ……、まさかリヒトとピクニックすることになるなんて…。
いや…、これは考えようだ。ピクニックじゃなくて仕事だと思えばいいんだ!うん仕事だ仕事!
「明日は日曜だし、せっかくなら途中で泊まるのはどう?」
「…なるほど、確かにそれも悪くないですね」
「いやいや…!あんたまで納得すんなし!」
私は思わずツッコミを入れてしまった。なんでリヒトと泊まりがけのピクニックを…!?
「じゃあシエル一人で留守番するか?」
リヒトがそう尋ねてくると、途端に私は勢いがなくなり、シュンとなって蚊の鳴くような声で答えた。
「行きます…」




