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第2話 魔法省の魔女アリシア

 突然の来訪客が私の家を訪れてきた。しかも私に用があるらしい。…まさか、これが神様の言ってた刺客?

 ……え、どうしよ…。とりあえず魔法で追い払えばいいかな…?いやいや落ち着け私…、相手は魔法省の人だぞ。そんなことしたら返り討ちにされて捕まっちゃう…。

 とりあえず…顔だけ見せるか…。それで、「あ、そう言うの結構です」って言って即座にドア閉めればいいや。うん、そうしよう。

 そして、私は恐る恐る玄関のドアを開けて外に出た―――すると、そこには黒い三角帽子を被り、三角帽子の下から覗く煌びやかなブロンドの髪を携えた綺麗な女性が立っていた。年齢は私より少し年上に見え、大人っぽい雰囲気が羨ましい…。瞳もこれまた綺麗な青色で、玄関のドアから顔を覗かせたその瞬間から、私の顔をじっと見ている。

 三角帽子をかぶっているので紛れもなく魔女なわけだけど、すごくきれいな魔女さんだ…。なんだか無駄に緊張してきた…。


「あ、あの…、私がシエルです…」


 私が名前を告げると、その魔女さんはぺこりと軽くお辞儀をして、再び私に視線を向けた。


「突然の来訪すみません。わたしは魔法省に所属する魔女、アリシアという者です」

「どうも…」


 私も釣られるようにお辞儀をする。めっちゃエリートそうだし、意識高そう…。やっぱりこういう人が魔女になるんだなって思う。


「早速ですが、シエルさん。これからわたしにご同行願えますか?」


 アリシアさんが真面目な表情でそう告げた。……え??それって悪いことした人を連行するときに使う言葉じゃないですか??私何も悪いことしてないですよ!?

 いや待て、同行は任意同行かもしれない。任意であれば断る権利だってある!


「あの…、任意同行ですよね?」

「いえ、強制です」


 きっぱり…。…え、私に選択の余地なし?…いやいや、まだ諦めるな私!


「でも、私魔法塾の講師やってまして…、休むわけにはいかないんですよー」


 これ以上ない言い訳があった!いやいや、実際ほんとにそうだから!

 ――しかし、アリシアさんはその言い訳を予想していたかのような対応を見せた。


「それならご心配なく。塾長様には既にわたしの方から事情を説明させていただきました。塾長様も快諾しております」


 にっこり笑顔でとんでもないことを言うアリシアさん。……いやいや待て待て!勝手にクビにすんなし!!

 だが私を甘く見るなよアリシアさん!私にはまだ切り札がある!!


「塾長が快諾しても、私をすごく気に入ってる子供が居まして…、私が居なくなったらその子がすごく悲しんじゃうと思うんです!」

「ユミナちゃんですよね?その子のご家庭にも事前に訪問し、快諾していただいております」


 ………。アリシアさんの笑顔が憎い…。なんですか営業スマイルってやつですかそれ!!心の中では「ざまぁ!!」って思ってるでしょ絶対!!

 っていうか、なんでみんなして快諾してんの!?私がいなくなったらあの塾つぶれるぞ!?


「ち、ちなみに…、ユミナちゃんはなんて言ってました?」

「シエルさんが魔女になるなら絶対応援するとおっしゃっていました」


 うへぇー…、まじかよー…。この人誘導尋問したな…。もっと魔女になりたくないアピールしとけばよかった…。

 …ママも絶対勧めるだろうし、私に同調する人いないじゃん…。えーーー、行きたくないーーー。そもそも、どこに連れて行く気?


「あの…、私をどこへ連れて行く気で…?」

「まずはミロルにある魔法省の支部に来ていただきます。詳しくはそちらに着いてからご説明します」


 ミロルというのは、この町が所属する地方で一番大きな町の名前だ。魔法省は地方で一番大きな町に支部を置いているので、まずはそこでいろいろやるのだろう。その“いろいろ”の内容が気になるけども…。

 ミロルまでは箒で飛ばせば6時間くらいで着く距離。箒でそんな長時間飛ぶとか…、小さい頃にママと練習した時以来だ…。


「えと…、何日後くらいに帰ってこれますかね…?」


 これが一番知りたいところである。1日はさすがに無理だとして…、3日後?5日後?長くて1週間ちょっと?


「そうですねぇ…、1年後くらいでしょうか」


 アリシアさんは少し考える素振りを見せた後、笑顔でそう告げた。―――却下。

 私は失礼を承知で無言で後ずさり、ドアを閉めようとした―――

 が、アリシアさんが笑顔のまま私の右腕を勢いよく掴んできた…。ひぃぃぃ!!


「待ってくださいシエルさん。もう帰しませんよ」

「いやいやちょっと待って!!帰さないも何もここが私の家だから!!いやほんと行きたいんですけど…!1年はさすがにちょっと…!あの、働かざる者食うべからずと言うじゃないですか!私有り金そんなにないので、人助けばかりで収入が無いとちょっと生きていけないというか…!」


 私の必死の命乞い。行きたいなんて1ミリも思っていないです。1年とか…もうほんと勘弁。そんな長期間の旅行もしたことないのに、もう絶対1週間経たないうちにホームシック不可避!!しかも生活費とかどうするの…?


「ご心配なく。生活費など諸々はすべて我々の方で負担しますから。替えの衣類も必要でしたら購入しますよ」


 ……マジですか。さすがお役人さん…。膨大な資金力にものを言わせる戦法ですか…。それなら経費でいろいろほしい服を買ってもらう手もあるな…。

 いやいや、やっぱり無理なものは無理!!

 私は煩悩を捨て、逃げる一心で足に力を入れる。そして、掴まれていない左手に杖を密かに発現させ、杖の先をアリシアさんに向けた。


「…!」


 私はアリシアさんに風魔法をかけ、彼女の体を風で包んで門の外まで運んでいく。突然の奇策にアリシアさんも驚いたようで、彼女は呆然とした表情を浮かべたまま、無抵抗で運ばれていった。フフフ…、うまくいったぜ。

 私は風を微調整してアリシアさんの足を地面につかせると、杖を振って門の扉を閉めた。


「また機会があれば是非」


 私はにこやかな営業スマイルでそう告げると、足早に家の中へと入った。……ふぅ、なんとか事なきを得た。塾長とユミナちゃんにはあとで言いに行こう。機会があれば是非なんて言ったが、もう二度と来ないでほしい…。

 私はため息をつきながら、食器洗いの続きをやりに行こうとすると、目の前に私のリュックを持ったママが現れた。……え?


「はい!荷物は私の方でまとめたから。箒で移動するから、これくらいコンパクトじゃないとね」


 ママは笑顔でそう告げた。私は途端、魂が抜けるような声を上げた。


「エエェェェエエ~~……」


 そのままガックシとうな垂れる私。そして悲しみの涙をポトリと。もう家を出る前からホームシックですよ…。

 すると、ママが私の頭を優しく撫でた。


「まったく…、いつまでも甘えん坊さんね。人助けして回るのも悪くないものよ?いろんな町を巡って観光もできるし!気を張らずに、旅行気分で行けばいいの。大丈夫。あなたの腕はピカイチだから、絶対にみんなの役に立てるわ」

「ぅ…ぅ…」


 ママの優しい言葉に私は涙を零す。…そう、私は甘えん坊。それは私自身が良くわかっている。ママはそんな私に成長してほしいと思っているんだろう。


 ガチャン


 その時、玄関のドアが開き、アリシアさんが入ってきた。


「あの…、もうそろそろ行きませんか?」


 感動の雰囲気ぶち壊し。私はジト目でアリシアさんを見る。…ていうか、なんでこの人勝手に人の家に入ってきてるの?


「やっぱりもうちょっとだけ考えさせて!!」


 私はママに顔を向けて懇願。ママとのやり取りでちょっとくらい行ってもいいかなって思ったけど、今のですべて無に帰した。


「すみません。ちょっと手荒なことしてもいいですか?」


 後ろからアリシアさんが良からぬ発言をする。え…?何…?喧嘩でも始める?


「大丈夫よ」


 なんとママが笑顔で承諾。えぇ!?ママ何言ってんの!?


「それでは…」


 すると、アリシアさんは杖の先を私の腕に向けた。――途端、私の両腕が後ろに引っ張られ、そこにアリシアさんが魔法で鎖を発現させて、私の両手を一瞬で縛り付けたのだ。

 いやいやいや!!これ…、完全に逮捕じゃん!!しかもママの前で…!もう別の意味で泣きそう…。


「アリシアちゃん、シエルのリュックをお願い」


 私が何も持てない状態なので、ママは私のリュックをアリシアさんに渡す。アリシアさんは軽く頭を下げてそれを受け取った。


「それでは、シエルさん行きましょう」

「嫌だぁぁぁ!!放せぇぇぇ!!」


 私は必死に抗うが、むなしくもアリシアさんに引きずられながら家の外へと出てしまったのだった。もうちょっとまともな別れの仕方が良かった…。

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