第八話
てっちんの家は都の端っこに近いところにある王華の家と違って、都の中心部にやや近いところに建っている。
魔獣はこの世界のどこにでもいる。
都は結界が張られていて基本的に入ってこられないが、やはり端っこ、都と外界の境界線に近い場所にはあまり人が住みたがらない。
そういうわけで、帰り道に人はほとんどいない。
歩くうちに薄っすらと暗くなってきている。
誰もいなく薄暗いその道は、なんだか世界に自分一人だけのような錯覚を起こさせた。
正直不気味だ。
心細くないと言えば嘘になる。
魔獣に襲われて以来、世界が今までと変わって見えているのは祖母や真守だけではなかった。
野良猫が草の茂みをかき分けて歩く小さな音にすらびくりと反応してしまう。
そんな時だった。
人の話し声が聞こえてくる。
誰のだとも判別がつかないものだったが、王華はここに自分以外の人間がいることを知ってほっとしていた。
「…………――た。…………――です」
まだ少し遠いからか明瞭ではないその言葉は理解できるほどはっきりとは聞こえてこない。
どうして一人分の声しか聞こえないのだろうと、こっそりその声に忍び寄っていく王華は、小屋の陰から声の主を見つけて納得した。
てっちんの父親だ。
その人は声が大きいのだ。
だから相手の声が聞こえてこなかった。
祖母に相談に来る時だっていつも、祖母の声は聞こえずにその人の声だけが聞こえていた。
話している相手は全く知らない人間だったが、それもそのはず。
王華がてっちんの父親の交友関係を知っているはずがないのである。
「これで私の店を助けてくれますよね……?」
「ああ。もちろんだとも。客も紹介しよう」
「ああ……ありがとうございます。ありがとうございます……」
何の話かは分からなかったが、てっちんの店はこれで安泰なのだと王華は関係ないながらも安堵する。
てっちんは大事な友達だった。
もちろん真守もそうだ。
だからこそ、大事な友達の家族の喜びは、王華の喜びでもあった。