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第六話




 鈍い音が何度も響く。

 ぶつかり合う木の枝が、ひゅっと耳元を掠って空気を裂いた。


 自分でも神がかり的な動きで避けられたはいいものの、落ちていた紅葉に足が滑る。


「うわぁっ!」

「あーあー、どんくせ! そんなんじゃハンターにはなれねーぞ!」

「うっせーな!」

「ちゃんばら始めてもう何ヵ月だよ。季節変わっちまったぜ」

「ちょっと滑っただけだろー、がっ!」

「うぉっ! あぶね!」


 少しドジを踏んだだけで説教を始めるてっちんを黙らせるように、脳天を狙って木の枝を振り下ろす。

 軽くかわされたことに小さく舌打ちをしながら、木の枝で指さすように構えるとてっちんが笑って太めの木の棒を剣のように構えた。


 てっちんは王華より体が大きい。

 だからか様になっているのが、なんだか少し悔しい。

 悔しいけれども、体の大きさはどうにもできない。




 王華とてっちんが川で魔獣に襲われたあの日から、子供たちの間ではハンターごっこが流行っている。

 魔獣役と襲われる人役、そしてハンター役に分かれてする遊びだ。

 ちなみにだが、周りの見物人役はいない。そこまで人数が足りていないからである。


 あの場に居合わせていた子供たちの中でも、特に王華とてっちんは助けてくれたハンターに強い憧れを抱き、単純なもので近頃、将来の夢は何と聞かれると「ハンター」と答えている始末なのであった。


 ここ最近毎日振り回していた木の枝は最初細いものからだんだんと太いものへと変わっていき、今や当たったらこぶでもできてしまいそうなくらいには攻撃力のある太さの枝が二人の手には握られている。


 他の子供たちはそこまでハンターになることを夢見てはいないようで、細い枝を持って振り回す程度だ。

 だから彼らは大体が魔獣役か襲われる人役だった。




「手のひらがいてー」

「オレも。ほら、タコできてる」

「オレもだ」


 己の手のひらを見つめた王華は、ふと思い出した。


 あの日、自分の腕に噛みついた魔獣。

 あの時の傷はもう治り消えてしまっているが、あの時の恐怖は未だに消えない。


 今でも時々夢に見る。

 今まで見てきたどんなものよりも恐ろしいと、本能から震えたあの時のことを。


 緑色の皮膚がぴったりと体に張り付いた小さな体。

 骨と皮だけのような細い腕からは想像できないくらいの強い邪悪な力。

 ぎざぎざと尖った小さな鋭い歯。

 水中で怪しい光を放つ小さな双眸。それは確かに光っているのに、綺麗なものでは決してなかった。


 あれが祖母の恐れていた、闇の化け物だったのだ。


 きっとあの時ハンターが来てくれていなかったら、来るのがもう少し遅れていたならば、自分はこの場にいなかっただろう。


「あの時のハンターかっこよかったな……」


 ぼんやりと思い出した脳内の彼らに小さく笑みを浮かべて、知らずのうちにそんな言葉が口から飛び出る。


「そりゃかっけーよ! だってあれ、倭のハンターらしいぜ」

「倭? 倭ってあの倭?!」

「おう。周りがそう言って騒いでた」


 ハンターギルド倭。

 それは日本国にあるハンターギルドの中でも最も有名な三つのギルド、通称三大ハンターギルドのうちの一つである。


 そんな遠い世界の人間に窮地を救われた事実は、王華の心を高揚させた。


「すげー! まじすげー! 皆意外と若かったな!」

「オレも思った! オレらと同い年くらいの奴もいたよな!」

「いたいた!」


 興奮した二人は向かい合って拳を握る。


「一人金色の髪の毛した人いただろ?! もしかしてさ、もしかしてさ! エルフかな?!」

「綺麗だったよな……。でもエルフじゃないと思うぜ。純粋なエルフは人間の都では暮らせないって聞いたことあるから」

「へー。何でなんだろうな。掟か?」

「さあ。ま、でもさ、オレ達今ここで頑張って、倭に入れたら直接聞きゃいいじゃんよ!」

「そうだな!」


 再び始まったちゃんばらごっこの合間に、そういえば、と思い付いたことが口を突いた。


「ハンターってどうやってなんの?」


 また手を止めた王華に、てっちんも同じく木の棒をおろす。


「入りたいギルドに行って、実力を示すんだってよ。今のところ、オレは合格でお前は不合格だ」

「何だと?!」

「お前、オレの攻撃から逃げてばっかじゃんよ。逃げんのはうめーけど、それじゃ魔獣は倒せないぜ」

「相手の攻撃を避ける技術も大事だろうが!」


 てっちんの言葉に噛みついた王華だったが、それは納得してしまうものだった。


 体格に恵まれているてっちんの一撃は重たく、王華は吹き飛ばされてばかりだ。

 擦り傷は地味に痛くて、避ける技術ばかりが上がっていっているのが実際のところだった。

 悪いことではない気もするが、避ける技術を学ぶためにこうしているわけではない。


 てっちんが言うように、魔獣を倒せなければハンターにはなれないのだ。


「腹筋、腕立て、毎日百回だな」

「甘い! 千回だ! ついでに背筋!」

「そんなにしたら、てっちんの腕折れるようになっちまうな」

「オレは今でもお前の骨折れるぜ!」

「やめろ! こっち来んな!」


 持っていた木の棒を投げ捨てて追いかけっこをする二人の周りで、魔獣役をしていた子供のわざとらしい叫び声に他の子供たちから笑い声があがる。

 それを聞いて王華とてっちんも一緒に笑った。


 そのままてっちんに腰に飛びつかれて地面に転がり、腕と足がすりむける痛みに王華は大きく叫んでいた。





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