表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

3.同士がいるということ


いやホント、自分でも馬鹿だと思うけど。


目の前に出された麦茶の氷がカランと音を鳴らす。その向こうにいるのは不機嫌そうな顔をした藤木だ。

「で、用事ってなに」

藤木の玄関のチャイムを勢いよく押したものの、何を言えばいいかパニックになっている間に、玄関から藤木本人が出てきた。僕の顔を見て、かなり驚いていたけど、突っ立って何も言えない僕にとりあえず中に入れ、と入れてくれた。ご丁寧に麦茶まで入れてくれて。


「用事は特にないんだけど、体調大丈夫かなって」

「何だそりゃ」

ますます不機嫌な声で藤木がこっちを見る。

「横になりたいから、用事ないなら帰れよ」

その言葉に僕はカチンときた。

「な、なんだよ! 心配してやってんだろ!」

「は? 何で俺がお前に心配してもらわないといけないんだよ」

僕は拳を握って、バン! とテーブルを叩いた。


「だってお前、顔真っ白だったから! 新川の話聞いてた時に!」


勢いで出てしまって、僕は思わず自分の口を手で塞いだ。そんな僕の顔を藤木は、厳しい目で睨んできた。

「……何が言いたいんだよ」

ああもうこうなったら、全部言ってしまえ!


「お、お前新川が好きなんだろ? だからあいつに彼女出来たって聞いてショックなんだろ!」

「は……」

「お前が新川のこと、見てたの、知ってんだからな! デレデレしたり、ガッツポーズしたり! 僕のほうが新川のこと前からずっと見てたんだから!」


言い切って、目の前の麦茶を一気に飲んだ。藤木の顔が見れなくて、僕は目を逸らした。

しばらくの沈黙。藤木も僕も、言葉を発しない。外の蝉の鳴き声だけが響いていた。


やがて、藤木が口を開く。

「……俺も分かってたよ、福山(おまえ)が新川好きなの」

「へっ」

藤木の声に僕は鼓動が速くなる。バレてたの?

「俺だって、新川を見ていたからな。お前いつも隣で嬉しそうにしてたもんなぁ」

恐る恐る藤木の顔を見ると、少し口元を緩めて笑っていた。藤木も僕のことを分かっていたなんて。

何だよ、そりゃ。


「俺よりつらいよな、お前。近いもん」

「そ、そんなこと……お前こそ明日のテスト、よかったら告白しようとしてたんじゃないの?」

「あー、それは……半分くらい当たり」

照れたような、寂しいような笑いを藤木は見せた。よく聞いたら告白もだけど、本気で英語がやばかったらしく、追試になる前に、と頑張っていたらしい。

僕らは同時にため息をついた。


「つまり俺らは失恋したもの同士」

「そうだね」


ククッと藤木が笑うので僕も笑った。失恋したというのにこんなにおかしいなんて。だんだんおかしくなってきて、挙げ句の果てには腹を抱えて笑う。

「あー、可笑しい。そういえば藤木、あの漫画読んだ?新刊買ってただろ」

「読んだ! まさかラスボスが手下になるなんてな!」

漫画の話に食いつく藤木。僕も嬉しくなって当分その漫画の話で盛り上がる。

「あとさあ、福山『キミダカ』好きなんだろ。先月のライブ行った? 俺、行ったぜ」

「えー。羨ましい! どんな感じだった?」

僕が『キミダカ』が好きなことを新川から聞いていたらしく、以前から話したかったんだと藤木が笑う。


ああなんだよやっぱり僕ら、気が合うんじゃないか!


それから僕らは今までのバトルがまるで嘘のように盛り上がり、笑い合った。

「新川のさあ、笑顔大好きだったんだよね」

「ああ、分かる。あいつ、キラキラしてるもんな」

「そう! キラッキラ! やっぱ藤木よく分かってんなあ!」

「お前こそ。さすが二年見てきただけのことはあるな」

笑いながら新川の好きなところを言い合う僕ら。きっと新川は今頃、彼女の前でくしゃみをしているだろう。


そんなこんなですっかり友達になった僕と藤木。こんなこともあるんだなぁ。だけど友達からさらに深い関係になってしまうことになるなんて、この時の僕らは分からなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ