1.片思いの相手は親友、そして……
キラキラ輝いているもの、って聞いたら何を思い浮かべるだろうか。太陽が反射する海面や、子供達の笑顔。思い描くのは人それぞれだと思うけれど。
僕が一番最初に思い浮かぶのは、クラスメイトの新川聡の顔だ。よく笑って、よく喋って。いつもクラスの中心にいて、誰からも好かれる。
僕の中では、彼ほどキラキラ輝いている人はいないと思う。だから僕はいつも新川を見てしまうんだ。
僕、福山哲郎にとってそれは憧れでもあり、恋愛対象でもあり……。つまり、僕は新川が好きなのだ。かれこれもう二年間、想い続けている。でも新川にとっては、俺は単なる友達……いや、親友に近い。それだけに告白などもってのほか。僕はこのまま親友としてでもいいから、横にいるんだと、覚悟を決めていた。
ああそれなのに。僕は彼の存在に気付いてしまった。
「新川あ、この参考書、貸してくれてありがとうな。分かりやすかった」
俺の前の、新川の席に近寄って来たのは、クラスメイトの藤木裕哉だ。参考書を新川に渡すと、ニッコリと新川が藤木に笑顔を見せた。
「藤木の役に立てたならよかった」
その天使の微笑みを、惜しげも無く、藤木に見せる新川。それだけでもモヤモヤするというのに……
「ま、また貸してな」
笑顔を向けられた藤木の顔が、だらしなく崩れる。それを見て僕はムカっとする。
僕が気がついたのは、藤木が新川に惚れてるってことだ。初めは気のせいかと思ってたんだけれど、何度かそんな場面に遭遇して、気のせいではないと確信した。新川と話した後に藤木が一人、ニヤついてたり、ガッツポーズしていたり。これは危険だと、僕のアンテナが受信した。それ以降、僕は新川を追いつつ、藤木も追いかけるようになった。
***
今日は僕の好きな漫画の発売日。放課後、近所の書店に行き、棚にある新刊を手に取った。早速レジに行こうとしたとき、前方にうちの制服を着ているやつを見つけた。手元には、僕と同じ漫画を持っている。この漫画、マニアックだから、置いてある冊数は少なくて、新刊は僕が手に取ったのが最後だった。
僕は少し嬉しくなって、知ってる奴かもしれないと、そっと顔を見て後悔する。
藤木じゃん……
藤木もまた視線に気づいたのだろう、僕と目が合うと何と一瞬、睨んできた。な、何で睨まれなきゃ何ないんだよ!
目を逸らして藤木は先にその漫画をレジに持っていく。その背中に僕はあっかんべーをした。
新川は顔がいいだけじゃなくて賢いし、スポーツも出来る。今日はバスケの組対決なんだけど、さっきもシュートを決めて、大歓声が沸いた。女子の黄色い声に、男子の羨望の眼差し。本当に理想だなあ。
僕は試合中ということを忘れて、立ち尽くしてたら、後ろから人がぶつかってきた。
「イテッ!」
「福山、試合中にボケっとすんなよ、アホが!」
ぶつかってきたのは、藤木だ。手にボールがある。どうやら近くにボールが来ていたことに、僕は気がつかなかったようだ。そ、それにしても『アホ』って……あんまりじゃないか!
僕は腹が立って、対戦相手じゃなく藤木を追いかけた。試合後に、クラスメイトに怒られたのは言うまでもない。
「お前と藤木仲悪いよな。何で?」
体育館から教室に戻る間、クラスメイトの稲森に笑われながらそう言われた。僕がちょっかい出してるんじゃなくて、アイツから仕掛けてくるんだと言うとさらに笑う。
「でもさ、二人よく似てるよね」
「は? 全然違うだろ。アイツ背が高いし、顔だって」
「外見じゃなくてさ。お前の好きなバンド、『キミダカ』だっけ? マニアックなバンド」
「マニアック言うな」
「前さ、藤木がヘッドフォンつけてたから何聴いてるか聞いたら『キミダカ』だっていうからさ」
僕の好きなバンドはまだまだ知名度が低く、誰に聞いても知らないって言われるくらい。なのに藤木が聞いてるなんて。
「へぇ」
メンバーの誰が好きなんだろ。曲の話したら盛り上がるだろうな。ライブ行ったことあるのかな。
「前も好きな漫画をお互いに買ってたとか言ってなかった? 実は趣味合うんじゃね?」
いやいや、漫画やアーティストの好みが似てるくらいで騙されないぞ!
でもふと思ったのは、同じ人を好きになるくらいだから、もしかしたら仲良くなれるのかもしれない、ということ。だけどそれは極端すぎる。
僕が頭をブンブン振っていると、稲森は不思議そうに見ていた。