8 体育祭練習 1
書きたいのに時間がなさすぎるのです
「綾ちゃんー早く外行くよ!」
1週間後に控える体育祭の練習が今日から始まる。
それに加えて体育祭の色分けも今日発表される。
魔法の力量を考えてある程度は決まっているらしいが、多少は変わるからそこがどうなるかで勝敗が決まると行っても過言ではない。
(体育館があるのになぜ外で発表する…暑いし日焼けする…)
体育館は基本的に入学式や卒業式などの儀式ぐらいでしか使わないらしいが、もうちょっと使ってもいいと思う。
なんか勿体ない。
そして色分けで最悪なのが三年のS・Aクラスと一年のCクラスが技量の関係でほぼ100%同じ色になることだ。
つまりあいつがいる。
私の力を知っている零がいるのだ。
あの感じではバラすことはないだろう脅されそう。
弱みを握られるのはいつ、何をされるかわからない。
でもビクビクしてるのは性に合わない。
だからこれ以上の弱みを握らないと気がすまない。
私から行くにも一応他の人には関わりがないことになってるから下手すると怪しまれる。
鈴葉を向かわせるにも力の強さはほぼ同等。
速攻でバレて詰められるのがオチだろう。
まだあまり関わっていないがあの感じは確実に腹黒だ。
私が一番相手にするのが嫌いなタイプの人間だ。
なぜ嫌いかって?なぜなら私も過去に貴族社会で生きていたからある程度は人の考えは読めるけど、腹黒は表では善良だけど裏はかなりヤバい。
腹黒だけは全く考えを読めないのだ。
だからできるなら関わりたくもない。
そう、関わりたくないのだが…
「団長の白ノ瀬零だ。よろしく頼む」
(…帰りたい)
よりにもよってこいつが団長なのだ。
いや、まあ一応というか本家の人間だし、妥当ではあるが。
とりあえず帰りたい、それか今すぐ逃げたい。
だが当然こいつが許してくれるはずもない。
そう現実逃避しつつ、話を聞いていると、このあと実際に練習をするみたいだった。
しばらくは関係ないと思い人気のない場所に向かう。
「ついてきて」
黒羽に呼ばれてしまった。
「…鈴葉」
『諦めなよ、マスター』
しかも自身の使役獣に諭されてしまった。
「…わかったわ」
そう返事をすると黒羽は校舎に向かった。
認識阻害の魔法を自身にかけてから後を追う。
そしてこの方向的に目的は校舎裏だろう。
大人しくついていくが気分は処刑台に向かう死刑囚だ。
校舎裏に着くと案の定零がいた。
「ようやくか、遅かったな」
「いつの間にここにいたのね…」
「そこは魔法でどうにかなる」
「ちなみにどんな効果の魔法なの?」
「人が意識しなくなる魔法といえばいいかな。そこにいるのに意識させないようにするものだ」
(なにそれ…!おもしろそう…)
魔法オタクとして見知らぬ魔法に食いつくのは当然だった。
「この魔法を教えてほしかったら体育祭は全力でやれ」
「え、バレるのはやだ」
「お前の場合は短縮詠唱が使えるだろう、それを使えばバレることはないだろ」
(本当は短縮どころが無詠唱できるのだけど…)
「わかったわ、そんなことでいいのね」
「ああ、頼んだ」
「それじゃあ私は戻るわね」
「いや、まて一応連絡先は交換しておきたい」
「えぇ…面倒くさい」
「今回みたいに必ずしも黒羽を使って呼べるとは限らないからな、連絡先は持っておきたい」
「わかった、後で登録しておくから連絡先教えて」
私がそう言うと零はさっと紙を取り出して魔法の応用だろう方法で書いていた。
火属性魔法を応用して文字の形に紙を焦がす方法だ。
火属性の適性に加えて繊細な力のコントロール技術がないと不可能な方法だ。
それだけでも零の魔法の技術力の高さがわかる。
「それじゃあ今度こそ私は戻るから」
「ああ、じゃあな」
零には力のことはバレてるから遠慮なく身体強化を使って戻る。
零の顔が若干呆れていたのは気の所為ということにしておこう。
***
「ふぅ…」
あのあと急いで戻ったらちょうど玉入れの練習が始まるところだった。
玉入れと言っても普通のではなく、魔法を使った玉入れだ。
風魔法を使って玉の動きをコントロールしてかごに入れる。
かごの方も普通ではない。
かごの中にかごがあるのだ。
より小さなかごに入れるほうが得点が高くなる。
玉の数も少ないので数撃ちゃ当たる作戦は出来ないようになっている。
だから魔法の精密操作技術が必要になる。
S・Aクラスは2人までしか出ることができない。
それにS・Aクラスの人は基本模擬戦をはじめとした戦闘系の方に出る人が多いため他種目はほとんど出ない。
実質B・Cクラスの人がメインで動くからそうそうバランスが崩れることはない。
私が本気でやるとそのバランスが崩れてしまうがもしバレたら全責任は零にある。
それにバレるような使い方をする気もない。
「それではよーい…はじめ!」
開始の合図と共に皆が詠唱を始める。
大体詠唱が終わるくらいで玉を投げ魔法を使う。
(風よ…)
それに加えて水魔法の応用で空に鏡を作る。
「…ウォーターボール」
小声で詠唱して位置を確認しながら風を調整する。
並行して魔法そのものに認識阻害をかける。
鏡を確認すると一番得点が高いかごに玉が入っていた。
他の色がどうなるかわからないが少なくとも対抗できないということはないだろう。
そうこうしているうちに終了の合図が聞こえた。
審判の教師が得点を確認している。
得点の確認が終わったのかアナウンスがかかる。
結果は1位と2点差で2位だったがある程度対抗できることが分かったのは収穫だ。
自分は基本種目には玉入れ以外は出ないのでしばらくは見学になる。
陣地に戻ると美桜が駆け寄ってきた。
「綾ちゃんー2点差で2位ってすごいね!」
「ホント惜しかったよね」
「本番では1位取れるといいよね」
「だね、私はちょっとお手洗い行ってくるから。次美桜の番でしょ?」
「あっ、ホントだ。じゃあ行ってくるね」
「うん、頑張ってね」
「はーい」
お手洗いに向かうフリをして再び人気のない場所に向かう。
なぜだか嫌な予感がするのだ。
たかだか勘とも思うが魔力量が多い人ほど勘はよくあたる。
それは私が一番実感しているし、だからこそその勘に従う。
そう思いながら向かうと案の定というべきか結界が張ってあった。
しかもこの感覚的に零が張ったものだろう。
念の為私も隠蔽と防御の結界を張って零の結界に干渉する。
流石に零の結界を破壊するのはかなりの魔力を使うし、時間がかかる。
だから干渉して効果を書き換える。
内容は出入り不可から人間のみ可に。
相手が人間の可能性も考えて出入り不可の結界も張っておく。
準備を終えて結界内に入ると零はねずみ型の魔物と交戦していた。
ねずみ型の魔物は弱いが一度に現れる数が多く向こうでも問題になっていた。
「ファイヤーアロー!」
「綾…!?おま、どうやって入ってた!」
「どうやってって…結界を少し弄っただけよ。それよりこれ全部倒して問題ないわよね?」
「結界を弄ったって…まあいい、全部倒すぞ」
「オッケー、それじゃあ私と自分に防御結界張ってくれない?」
「…?ああ、わかった」
そう言って結界が張られたことを確認して魔法を行使する。
「ポイズンウェーブ」
水属性魔法のウォーターウェーブと緑属性の毒を入れる。
そうすることで無差別広範囲攻撃魔法の出来上がりだ。
今回は鈴蘭の毒を使ったから大体の魔物は倒せたが一部はまだ倒せていないからとどめを刺す。
「アイシクルランス!」
魔物が全て消滅したことを確認して零の方を向く。
なぜか零は固まっていた。
「零…?」
「あ、いや、なんだ?」
「いや、なんか固まっていたから」
「改めてお前の魔法の規格外ぶりを感じただけだ」
「規格外…?ああ、属性のこと?」
「俺も人のことを言えないが覚醒属性が二つって…」
「ああ、それね…ちなみに使えないのは聖と魔だけよ」
「…は?」
(あら、また固まったわ)
まあ、固まるのも無理もない。
向こうでも王太子殿下ですら基本属性の火、水、風、土、光、無と覚醒属性の氷と岩で計8属性なのだ。
対して私は基本属性の火、水、風、土、光、闇、無と覚醒属性が青火、氷、緑、岩の計11属性なのだ。
自分の適正属性の多さがおかしいのは理解している。
するとようやく現実に戻ってきたらしい零の顔が気付いたら目の前にいた。
「ひゃっ!ちょ何?」
「いや…」
零は何かを考えていたようだがしばらくすると離れていった。
「と、とりあえず戻りましょ!」
「ああ」
(ホント何考えているの…)
若干赤くなっている気がする顔を魔法で冷やしながら私は戻るのだった。
もろもろの矛盾を直さなきゃ…




